2018年2月10日(土)に開催された19卒向け就活イベント『READY TO FASHION OFF LINE 002』。本イベント内で行われた、業界で活躍する様々な職種の登壇者によるパネルディスカッションの様子をレポートしていく。
ゼロからイチを産み出す仕事はどんな業界にもあるが、ファッションにおけるそれは特に憧れの仕事。この業界を志すものにとって、どんな仕事なのか一番わかりやすいようで、とても複雑なのが「デザイナー」という職種だ。パネルディスカッション 最終回は株式会社エイ・ネット 「tac:tac(タクタク)」デザイナー 島瀬 敬章さんをお招きし、企業デザイナーの仕事と夢を叶える秘訣について語っていただいた。
デザイナーの一日のスケジュール
時期によってバラつきはあるものの、一番詰まっている場合のスケジュールはこちら。9時半に出社し、スケッチブックにラフ画を書いて清書をする。デザイン画というと一枚に一ルックがどんと書いてあるイメージだが、島瀬さんは一枚に大きく書くのではなく何個も並べて書き、その中で良いバランスが生まれものを拡大して次のページに清書してく、というやり方。イメージが膨らんできたらステッチなどのディテールやスタイリングを含めて細く書き込んでいく。午前中にイメージ出しを終えたら、お昼は近くの飲食店で休憩。会社がある下町の雰囲気が好きなのでその時間でリフレッシュできるのだとか。
午後はデザイン画に対して生地の当て込み作業を行う。ワンシーズンに何百という生地をピックアップし貯めておいて、出来上がったデザインに当てはめていく。生地が決まれば、生地の値段や納期などをメンバーに共有できるようにマップや資料を作成。デザインを描いたその先にもまだまだ仕事は山積みなのだ。
夕方6時以降は友人のブランドの展示会に行ったり、ファッション業界内外の様々な人たちと情報共有して時間を過ごす。
インスピレーション源は日常に
デザイナーとして服を作る中で、逃れられないのが「新たなものを産み出す」という作業。 ファッション産業という大きなシステムに乗った以上、そればかりはなかなか避けられない事実だ。「デザインする上で曲げてはいけない軸もある中、半年周期で新しいものを生み出していかなければいけない。でもその辛さがあるから生まれるものがあります。」と島瀬さんは語る。
「街に出ると当たり前ですが服を着ている人しかいないので、インスピレーション源はたくさんあります。生地がなびく瞬間や自然にできた折り目が素敵だなとか、じゃあそこを袖口に使ったら面白いかもしれない、といったインスピレーションがいろんなところに転がっています。
世の中にはそうした色々な刺激があって、そこで自分が見たり聞いたりしたものを通じて何かを生み出していく。人やものを介した時に自分の中に生まれた感情やイメージを服に落とし込めるというのはデザイナーにしかできない仕事なんです。」
島瀬さんのデザインソースは日常にある。例えばこうした街中でのふとした瞬間や、ぼーっとしていられるトイレの中など。意識していない時の方が良いデザインに巡り会えるようで、特に二日酔いのトイレの中はアイデアが浮かぶ頻度が高いのだそう。
日常という膨大なソースを切り取るように参考にしているのは、一般人を写したようなポートレート。橋口 譲二さんの「職」をテーマにした写真集が好きで参考にしている。
デザイナーを志した理由
小さい時から自分が「好き」と思うことに挑戦していた島瀬さん。しかし、就職活動のタイミングではまだ職業にしたいと思うほど自分が好きなことは見えていなかった。単位を全部取り終え時間を持て余していた4年生の時「好きでい続けているものは何だろう」と考えた末にファッションにたどり着いた。「服は着るのが好きだったんですが、一生やるんだったら作る側に回ったほうが人生面白いんじゃないかな、という単純な理由でデザイナーを志しました。大学卒業後に専門学校に入ったので、遅咲きは決意していました。」
島瀬さんは「デザイナーになるための努力はもちろん、その根源である『好き』を絶やさない努力が大切」と語る。「好き」が当たり前になっている時には気がつかないが、実は飽きないため、嫌いにならないための思考が「夢を実現させる原動力」を裏で支えている。
学生時代にやっておいたほうがいいコト
学生時代はとにかく「自分と向き合うこと」が大切。自分を見つける作業は嫌なところばかり目についてメンタル的にも辛いが、そこを乗り越えることで自分のコンプレックスやマイナスの考えをプラスに転じる力をつけることができる。「アイデンティティはコンプレックスの跳ね返りだと思うので、まず徹底的に自分自身を見つめる。そうすると全部が気になってきて嫌になったその先に、自分の『好き』が見つかってきます。」
島瀬さんが学生時代に自分の核となるものを探すために行ったのは、苦手な読書だった。今までイメージ先行型で勢いでやっていたところに限界が見えてきて、自分に何が足りないのか考えたときに見つけたのが、「言葉」を意識すること。まずは気になった言葉を調べるように一冊読み、さらにその中で気になったもの調べてという作業を延々と繰り返していく。心にとまったフレーズや単語を全部ノートに書き出し、3冊ほど溜まった時にその言葉たちを精査していく作業をしたのち、最終的に残ったのが「時間」というキーワード。 そうしてtac:tacというブランドが生まれたのだそう。世の中に流されるだけではなく、自分のスタイルを見つけるには、その核となる自分自身から逃げないことが重要なのだ。
これからファッション業界を担う若者へ
「当たり前を当たり前と思わないこと。日常の中に自分で非日常を見つける。斜めから物事を見ていく思想はとても重要だと思う。今の時代にファッションを仕事にしようとすると、不安要素もすごくあると思う。でも、その状況を突き詰めていくとアイデアが生まれてきます。 この世代同士で一緒に業界を盛り上げていきましょう。」
登壇者プロフィール
株式会社エイ・ネット 「タクタク(tac:tac)」
デザイナー 島瀬 敬章
2008年にエスモード 大阪入学。2009年 神戸ファッションコンテストにてグランプリを受賞し、翌年エスモード パリ校へ留学。パリ校在学中、南仏ディナールで開かれるファッションコンテストにてファイナリスト選出。パリ校を首席で卒業後、帰国し2013年に「tac:tac」をパタンナー島村氏と共に設立。2014年 エイ・ネットに入社し、2014 AWシーズンからエイ・ネットにて「tac:tac」を開始。