2017年8月27日(日)、渋谷レッドブル本社にて若者がファッション業界に繋がるためのイベント『READY TO FASHION OFF LINE』が開催。本イベントでは、将来ファッション業界で活躍することを志す若者に向けて、業界の様々なポジションで活躍する方を招いたパネルディスカッションを実施。三つのテーマで行われたパネルディスカッションを第三回に分けてレポートしていく。
第三回は「SNS/インフルエンサー×ファッション業界の最前線」をテーマに、今最も関心事となっているSNSを取り巻く現状をディスカッション。実際にインフルエンサーを起用した施策を行う2社と、販売スタッフ兼インフルエンサーが登壇。「インフルエンサーとファッション業界の理想の付き合い方」について実例を挙げて語った。
登壇者
株式会社ネバーセイネバー 代表取締役 齊藤英太
株式会社パル プロモーション推進本部 本部長補佐 堀田 覚
カインドオル吉祥寺店 店長 / ファッションユーチューバー 関根 弾(ハズム)
モデレーター
READY TO FASHION 代表取締役 髙野 聡司
各社で取り組むSNS施策について
READY TO FASHION 髙野(以下、RTF):まず齊藤さんに質問です。実は弊社との共同企画で、ファッションインフルエンサーを公募して実際にブランドを立ち上げる企画「OPEN BRAND」を行いましたね。こちらも含めて、御社で取り組んでいる、「SNS/インフルエンサー×ファッション」の施策やその狙いなどをお聞かせ頂けますでしょうか?
株式会社ネバーセイネバー 齊藤氏(以下、齋藤):弊社はECのみで展開する7つのファッションブランドを運営しています。「OPEN BRAND」は、お蕎麦さんで髙野社長と話していたとき生まれたプロジェクト。インスタグラマーを対象にブランドを立ち上げたい人を募集したのですが、最低でもフォロワー2万人を抱えているような方々が最終の9名に残りました。インフルエンサーとして活動してきて、最終的には自分のブランドを立ち上げて世界観を表現してみたいという方がとても多いことに驚いています。最終的に1名を選出しましたが、優秀な方ばかりで選抜には苦悩しました。
我々ができるのは生産背景の手配や撮影スタジオ、コールセンター、物流の用意など、ブランドを立ち上げるための実質的な支援です。しかし、ブランドをやりたいというクリエイティブな部分は”個”に関わるものなので、そこを見出さない限り新たなブランドは生まれません。ブランドというものは結局、個人の力だと思っていて、その個人の力を僕らが最大限フォローアップできればいいなと思いこのプロジェクトを始めました。こういった形でSNSとファッション企業が関わっていくのは、若い才能を発掘する意味でも大きな一歩だったと思います。
RTF:ありがとうございます。続いて、パルの堀田さんに質問です。パルでは販売員のSNS教育を推進されていますよね。その狙いやきっかけなどを教えてください。
株式会社パル 堀田氏(以下、堀田):SNSに力を入れる理由はスマホによって業界を取り巻く環境が激変したからで、スマホの普及による急激な変化は以下のようにいくつもあると思っています。
- 購買場所が実店舗からECに徐々に移ってきていること
- 「興味を持ったら買ってもらえる」という単純だった購買行動に、「検索して調べる」というワンステップが加わったこと。
- 検索エンジンからの流入ではなくSNSで直接調べるようになったこと。
- 情報の主体がマスメディアから個人に変わったこと。
- BtoCからCtoCになったこと。
これらの変化によって、実店舗が徐々に落ちてきています。そこで、店舗を持つ我々の最大資産である人材を活用してこの課題を解決していく手段が、スタッフのSNSを使うことだったのです。SNSの広がりによって服だけでは自己表現が完結しなくなり、ファッションの表現の範囲がライフスタイル全般にまで広がってきています。販売員のライフスタイルを通してリアリティのあるファッションを表現することでフォロワーの信頼を勝ち取り、価格以外の価値を伝えられると思っています。
実際に10万人以上のフォロワーを持つ販売スタッフもいますが、ファンがつくことで業績にも貢献しており、本人たちの評価にも繋がっています。さらに、そこで接客のノウハウや経験などを得られるのでSNSを活用することは本人たちにとっても働きがいになる。販売スタッフのモチベーションにも繋がるし、業績やマーケティングのことを考えても個人がSNSを運営することは、会社にとっても意味のあることだと思っています。
ファッション業界に進む若者に今、必要なこと
RTF:続いてハズムさんですが、ブランド古着屋のカインドオルで店長を務めながらファッションユーチューバーして活動されている立場、そして現在23歳と、本日の来場者と近い立場として、「ファッション業界に進む若者に今、必要なこと」をお聞かせ頂けますでしょうか?
ファッションユーチューバー ハズム氏(以下、ハズム):今年からユーチューバーとしてファッション動画を上げ始めたのですが、そもそもなんでユーチューバーになったかというと、古着屋でインスタグラムを始めたものの、全然フォロワーが伸びなくて効果を実感できませんでした。
インスタの運営に停滞感を感じていた時、たまたま去年の冬にYouTubeでカメラの紹介を見たのですが、そこまで興味がなかったカメラに対して興味が湧いたんです。これをファッションでやったらおもしろいんじゃないかなと閃きました。TVを見てても思うんですが、ファッションに特化した動画が世の中に少ないので、自分も視聴者も楽しめたらいいかなと思いアカウントを開設しました。
SNSは「さあ始めよう」と意気込んで始めるよりかは、こういうことをしたいという興味から始めるのがいいと思います。ファッションユーチューバーはまだ少ないので、これから増えれば嬉しいですね。カメラとパソコンと自分が興味を持つことがあれば誰でも始められます。
RTF:続いて堀田さん、齊藤さんに質問です。お二人の立場から今後のファッション業界に進む若者に必要なこと、求めることについて教えてください。
齊藤:議題は「若者に必要なこと」ですが、僕から偉そうなことは言えなくて、逆に若者から学ぶことが多いと思っています。自分の過去の経験則は不毛だと思っています。時代の変化が早く10年前と今では使う道具も環境も違いすぎるので、過去の事例をふりかざしても意味がない。失敗した経験は言えるけど「こうしたほうがいい」はないですね。
若い人は自分の知らないことをたくさん教えて刺激をくれるのですが、面接の時などで若者が無理して企業側に寄って「マーケティングの観点から~」とか語り出すと、薄っぺらく感じてしまいます。みなさんが得意なことの話をしてくれた方が断然興味を持ちますよ。プレゼンや面接の時は、自分の得意な領域だけを話した方がいい。そこをひたすら磨くのが大事です。
そのために、若いうちに色々と経験して欲しいです。やってみたいことにどんどんチャレンジして得た経験値は、人として幅を広げると思います。稼いだお金全部使う勢いでチャレンジしましょう。貯金はしないほうがいい(笑)使った分、絶対その後の人生で返ってきます。若いうちは自分の人生に投資することが大事です。
堀田:SNSはその人の姿が丸見えになります。ハズムさんの人気があるのも「好き」が伝わっているからだと思うのですが、義務感でやったり、頭で考えてやったことは人に届きません。
インターネットのおかげで商売やビジネスになる可能性があるから、好きなことや趣味趣向を徹底的に追求していったほうがいい時代になってきています。ファッションはもちろんですが、さらに他の分野で深掘りできることを作っておくと、自分なりの発信ができるようになると思います。そしてSNSでは、人となりも出てしまうので、人としての基本的な部分はしっかりしておいたほうがいいですね。
インフルエンサーとファッション業界の理想の付き合いかた
RTF:今ファッション業界ではインフルエンサーとの付き合い方について賛否両論があります。例えばインフルエンサーマーケティングで一時期話題となったダニエル・ウェリントンの例を挙げると、ステルスマーケティングと言われて逆ブランディングになってしまったことなどありました。
実際にファッションユーチューバー、インフルエンサーとして活動しているハズムさんですが、ファッション業界全体として、インフルエンサーと企業はどのような付き合い方が理想だと考えていますか?
ハズム:現在、YouTube上で企業から依頼されたPR案件はしたことがありません。自分の欲しいもの、興味のあるものをメインに紹介しています。紹介するにあたって、基本的には自分でブランドやショップ側に連絡して動画を作っています。今後もそうしていきたい気持ちは変わりません。
例えば「No, No, Yes!」というブランドがやっている所作というラインを紹介した時は、自分でセレクトショップに連絡して購入し、動画で紹介しました。それを見た視聴者の方が買ってくださったようで、ブランド側から直接連絡がきてお会いする機会をいただけました。レザーがメインのブランドなので、レザーの生産部分なども動画にしていきたいと思い、配信しました。
自分が好きなものを紹介した方が視聴者の方もピュアな気持ちで見られると思うし、やっている方も見ている方も楽しいのが一番だと思うので、今後も自分発信で紹介をしていきたいなと思っています。
RTF:では実際にインフルエンサーと仕事をしている企業にとって、インフルエンサーをいちメディアとして捉えた時に、経営側としてどういう関わり方をしていくのが良いと思いますか?
堀田:ハズムさんがおっしゃるように、好きでもないブランドをお金がもらえるからといって宣伝するのは、ユーザーから見てもすぐにわかってしまうからやらないほうがいい。一方で、インフルエンサーとして飯を食っていかなければならない、という時には悩むところでもありますよね。
ハズム:そうですね。でもユーチューバーの活動はプライベートの時間で趣味程度にやっているので、今のところは大丈夫です。自分が好きなもの、自分の趣味の延長でやっていきたいという気持ちは変わらないです。
齊藤:本当にハズムさんがおっしゃる通りで、自分をどうブランディングしていくかが鍵だと思います。会社に入って会社のブランドを背負うよりも、個人に価値があった方が、対等に話もできる。ハズムさんの場合なんかは、古着屋へハズムさんに会いに行きたい、なんて人がいるだけで十分会社にとって価値がありますよね。
ハズム:そうですね。一日10人前後が実際に店に来てくれます。
齊藤:会社からしたらこんな嬉しい話ないですよね。広告を打たなくても来てくれるのと同じ。そういう存在に個人がなっていく、というのが大事な時代、そしてこれが可能な時代なんだと感じます。
堀田:マスメディアが発信する情報が響かなくなっている中「この人が言うから信じる」という、昔でいう口コミのようなものの重要性が増している状況では、そういう“線”を増やしていく方がブランドとして強いと思います。
昔のブランドマーケティングは「いいビジュアルを見て憧れてもらう」という考え方だったけど今は違っていて、そういうやり方は一部のラグジュアリーブランドしか通用しない。人の目が張り巡らされているインターネットの時代だから、消費者との繋がりの線の太さと数の多さが多いほど強いと思います。
齊藤:逆に「インスタのフォロワー数を増やしたいからこのブランドに就職してみよう、販売員になってみよう」とか、ブランド自体の影響力やフォロワーの力を利用する就職の仕方はありなんじゃないでしょうか?
堀田:実際うちのブランドにもそういう人はいます。でもそれが悪いとかではなくて、労働環境を考えた時にそういうことで働きがいを感じたり成長できるのであれば、企業にとっても意味はあると思います。今後どんどんそうなるんじゃないですかね。逆に企業側もそういった販売員のハングリーな姿勢を見て評価していくかもしれません。
RTF:登壇者の皆様、ありがとうございました。本パネルディスカッションでは、SNSの登場によって、企業だけでなく、そこに関わる私たちにどんな影響があるのかについて考え、そこに生じる問題や課題を挙げながら紹介しました。SNSが普及するこの時代に、私たちがどのような選択をして、どのような道に進んでいくのかを考えるきっかけを与えることができれば幸いです。
登壇社プロフィール
株式会社パル プロモーション推進本部 本部長補佐 堀田 覚 (ほった さとし)
大学卒業後、大手アパレル会社に入社し営業、DB、VMD、MDを経てブランド責任者に。その後、ハースト婦人画報社にて新事業としてのメディアコマースELLESHOPを立ち上げMDとマーケティングの責任者を行い、現在は株式会社パルにて、プレス・プロモーション・WEB・ECの責任者を務める。
株式会社ネバーセイネバー 代表取締役 齊藤 英太 (さいとう えいた)
東京理科大学中退。
20歳の時に現共同代表の磐井友幸と共にyahooオークションで衣料品販売を始める。
その事業が軌道にのり2006年株式会社ネバーセイネバーを設立。設立後はECに特化したアパレルブランドにこだわり、商品の企画生産から流通までを一貫して行い、販売経路も自ら開拓した。現在はSALEに依存したアパレル業界の商流に疑問をもち、ECだからこそなし得る「お客様には適正な価格で販売を」「生産工場には適正な原価で仕入れを」をモットーに、世界一のクリエイティブカンパニーを目指す。
自社ブランド:STYLE DELI / Luz Llena
自社ブランド統合サイト:bydrawer
カインドオル 吉祥寺店 店長 ファッションユーチューバー 関根 弾 / ハズム (せきね はずむ)
ブランド古着屋で店長を務めながら、YouTuberとしてファッションに特化したコンテンツを提供している。
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