2020年上半期に出版されたファッション・アパレルにまつわる新刊60冊を、「ビジネス編」「エッセイ・ファッションブック編」「批評・研究編」「テキスタイル編」「着物編」の5つのテーマに分けて紹介する。
本記事では「ビジネス編」と題して、17冊の新刊をピックアップ。
販売サイトのリンクも掲載しているので、気になる本があればぜひ購入して読んでみてほしい。
<目次>
- 「誰がアパレルを殺すのか」
- 「アパレル興亡」
- 「『イノベーター』で読む アパレル全史」
- 「D2C 『世界観』と『テクノロジー』で勝つブランド戦略」
- 「ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけでなぜ2倍売れたのか」
- 「生きる はたらく つくる」
- 「大きな嘘の木の下で 僕がOWNDAYSを経営しながら考えていた10ウソ。」
- 「取り替えるだけ!メガネが人生を変える」
- 「辰野勇 モンベルの原点、山の美学(のこす言葉)」
- 「ワンピースで世界を変える!専業主婦が東大安田講堂でオリジナルブランドのファッションショーを開くまで」
- 「ウールリッチと私」
- 「シニフィエを買いに。 これからのためのセゾン・マーケティング論」
- 「百貨店・デパート興亡史」
- 「感性産業のブランディング グランドセイコー、ファクトリエ、超高密度織物DICROS、伝統工芸ブランドHIRUME」
- 「ラグジュアリーと非ラグジュアリーの店舗立地戦略 理想の自分, 現実の自分とブランドの関係」
- 「職場体験完全ガイド 会社員編 67 ファッションの会社 ユニクロ・GAP・カシオ・資生堂」
- 「『古着転売』だけで毎月10万円──メルカリでできる最強の副業」
- 【ファッション本2020年上半期新刊まとめ関連記事】
「誰がアパレルを殺すのか」
(杉原淳一・染原睦美、日経BP、800円)
2017年に出版され、ファッション・アパレル業界内外で話題となった“誰アパ”の文庫版。単行本からの変更箇所は少ないため、出版当時の状況とは多少異なるが、業界が直面している問題は今なお残り続けている。大量廃棄が伴うビジネスモデル、過剰な国外生産依存による国内生産力の低下、低水準の労働環境意識…まだまだ解決の見通しは立っていない。過去の栄光に縋るばかりでまだまだ旧習を脱しきれない業界と向き合うため、そしてそれを変えていくために、文庫化されたこの機会にあらためて読んでみてほしい。
【販売サイト】
https://nikkeibook.nikkeibp.co.jp/item-detail/19973
「アパレル興亡」
(黒木亮、岩波書店、1900円)
東京スタイルをモデルにした架空のアパレルメーカーを中心に、戦後から現在までのファッション・アパレル業界の移ろいを、史実を交えながら描くアパレル栄枯盛衰物語。真に迫る人間ドラマに圧倒される。経済小説なので多少の脚色はあるにせよ、丹念な取材のもと書かれた本書を読めば、これまでの業界のありかたやそこからの学びと反省が見えてくる。これから業界に入ろうと考えている人には読むことをおすすめしたい。
【販売サイト】
https://www.iwanami.co.jp/book/b496838.html
「『イノベーター』で読む アパレル全史」
(中野香織、日本実業出版社、1800円)
ファッション・アパレル業界の歴史を彩ってきたプレイヤーを“イノベーター”と称して、ビジネスとクリエイティブの両面から業界に大きな影響を及ぼしてきた56人を解説。ファッションデザイナー史においてもれなく取り上げられるスターデザイナーはもちろん、これまであまり語られてこなかった服飾雑貨に分類される領域で活躍した人々にも光を当てている。ビジネスとクリエイティブをそれぞれ切り分けて語られることが多かったファッション・アパレル業界に、統合的な視座を与える1冊。
【販売サイト】
https://www.njg.co.jp/book/9784534057525/
「D2C 『世界観』と『テクノロジー』で勝つブランド戦略」
(佐々木康裕、NewsPicksパブリッシング、2000円)
ファッション・アパレル業界問わず、ビジネスの世界各所で取り沙汰される“D2C(Direct to Consumer)”を徹底解説。いくつかの事例をもとに、これまでの商流通構造との違いやその独自性を明らかにしていく。“P2C(Person to Consumer)”などその派生・分派型が続々と登場しており、これからのビジネスを語る上で無視できない存在となったD2C。この本でおさらいしておこう。
【販売サイト】
https://publishing.newspicks.com/archive/
「ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけでなぜ2倍売れたのか」
(酒井大輔、日経BP、1600円)
作業服専門店はいかにしてファッション・アパレル業界の台風の目となったのか。突如業界の中心に躍り出たワークマン大躍進の秘訣を探るルポルタージュ。データ経営の徹底、メーカー生産分を無条件で買い取る「善意型サプライチェーンマネジメント」、原価率65%を目指す商品づくり、ヘビーユーザーを巻き込む製品開発、家業化するフランチャイズ契約…ワークマン独自の戦略から学び得ることは多い。ワークマンなくして、近年の国内ファッション・アパレル業界は語れない。
【販売サイト】
https://www.nikkeibp.co.jp/atclpubmkt/book/20/279560/
「生きる はたらく つくる」
(皆川明、つるとはな、1400円)
せめて百年つづくブランドに──「minä perhonen(ミナ ペルホネン)」創業者の皆川明が自身の哲学を明かす。「最終的には、かたちそのものが目的ではなく、人のなかに残る『よい記憶』をつくるきっかけになるもの。それをつくりたいのだ。」(P.200)。やわらかな言葉の中にも強い信念が感じられる。創業25周年を迎えた「minä perhonen」のこれまでとこれから、時流に左右されない堅実なものづくりの原点、はたらくことへの考え方、ブランドに込める想い…ものづくりの世界を志す人、苦しい現状に心が折れそうな人にこそ読んで欲しい。
【販売サイト】
https://tsuruhana.official.ec/items/30832813
「大きな嘘の木の下で 僕がOWNDAYSを経営しながら考えていた10ウソ。」
(田中修治、幻冬舎、1500円)
ドラマ化もされて話題となったノンフィクション小説「破天荒フェニックス オンデーズ再生物語」(幻冬舎、2018年、1600円)の著者、田中修治・OWNDAYS代表取締役社長の最新作。固定観念に縛られない生き方・働き方で圧倒的な成果を残してきた田中社長が、幸福、お金、仕事、成功、人生、経営などにまつわる10の“ウソ”を暴いていく。「大切なのは、自分を信じること、そして行動を止めないこと。ただそれだけだ。」(P.168)。
【販売サイト】
https://www.gentosha.co.jp/book/b13050.html
「取り替えるだけ!メガネが人生を変える」
(星野誠、コスミック出版、1400円)
自称「メガネのヘンタイ」。メガネをこよなく愛する星野誠・誠眼鏡店オーナーがメガネの魅力と価値を存分に書き連ねた。これまでの自分に似合うメガネを選んではいけないと話す著者。著者曰く、メガネは理想の自分になるためのツールであり、未来の自分を基準にメガネを選ぶべきだという。メガネを替えれば見える景色が変わり、他人からの印象が変わり、行動が変わり、果ては人生を変えられる。いまの自分を変えたいのなら、まずはメガネから。全編を通して、メガネを替える意義を訴えかけていく。
【販売サイト】
https://www.amazon.co.jp/dp/4774792071/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_m2XrFbKWY8NAN
「辰野勇 モンベルの原点、山の美学(のこす言葉)」
(辰野勇、平凡社、1500円)
山に生き、山に学ぶ生き様。日本のアウトドアメーカーのモンベル(mont-bell)創業者、辰野勇・代表取締役会長がその半生を振り返り、山と共にあった人生哲学を語る。登山家ハインリッヒ・ハラー(Heinrich Harrer)の自伝著をきっかけに山に魅せられ、「死の壁」と呼ばれるアイガー北壁を当時世界最年少21歳で登攀。資本金ゼロの起業から被災地支援まで、7度の転換期を乗り越えてきたモンベルの経営思想には、辰野会長の死と隣り合わせにあった経験が息づいている。
【販売サイト】
https://www.heibonsha.co.jp/book/b491982.html
「ワンピースで世界を変える!専業主婦が東大安田講堂でオリジナルブランドのファッションショーを開くまで」
(ブローレンヂ智世、創元社、1400円)
ジェンダーフリーブランド「blurorange(ブローレンヂ)」が、東京大学安田講堂でファッションショーを開催するまでを描いた起業挑戦記。服作り経験ゼロからのブランド立ち上げなど、著者の経歴からは有り余るパッションが伝わってくる。「“服の常識”を変えてしまえば、“性別の常識”もガラッと変わるんじゃないだろうか」(P.96)。著者の経験と気づきから生まれたこのブランドは、ファッションに潜む性差の問題に挑んでいる。たしかにファッションはジェンダーを生産・再生産するものなのかもしれないが、ファッションにはジェンダーを解放することだってできるはずだ。「blurorange」には、そんな希望を抱いてみたくなる。
【販売サイト】
https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=4064
「ウールリッチと私」
(久安邦明、幻冬舎メディアコンサルティング、1000円)
アメリカの老舗アウトドアブランド「WOOLRICH(ウールリッチ)」に長年関わってきた著者が、「WOOLRICH」と歩んだ25年間を回顧する。アイコニックなバッファローチェックを全面にプリントした表紙が特徴。商社勤務時代のブランドとの出会いから、ジャパン社を設立した現在に至るまで、その成長を支えた著者のみぞ知る「WOOLRICH」の道のり、ビジネスの裏側を赤裸々に書き記していく。
【販売サイト】
https://www.gentosha-book.com/products/9784344927247/
「シニフィエを買いに。 これからのためのセゾン・マーケティング論」
(松本隆、繊研新聞社、2200円)
1980年代の国内消費文化は、セゾングループが築いたと言っても過言ではない。グループ解体後も出身企業は、いまなお市場を賑わせている。それら企業の底流にあるグループ創始者・堤清二氏の思想と、人文学知に裏付けられたセゾン・マーケティングの真髄を紐解いていく。本書にはビジネス領域の書籍で見かけることの少ない学者、書籍の名前が並ぶ。一部難解な概念も取り上げられるが、筆者なりの解釈とともに解説が加えられているため、人文領域に馴染みがない読者でも読み進めやすいはず。本書後半では、西武百貨店の代表取締役社長も務めた著者が、セゾン流ビジネス理論を独自に継承・発展させたコンテクスト・マーケティングの技法とその実践例を紹介。セゾングループの方法論はいまこそ役に立つ。
【販売サイト】
https://www.amazon.co.jp/dp/4881243373/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_zYXrFbGCJG5X4
「百貨店・デパート興亡史」
(梅咲恵司、イースト・プレス、860円)
“小売の王様”は今は昔──総合スーパー、コンビニ、ショッピングセンター/モール、ECモールら新業態の台頭、バブル崩壊による打撃、度重なる再編・統合、地方・郊外型店舗の淘汰…。独自の商習慣と関連法規に雁字搦めにされながら、最盛期の輝きを失いつつある百貨店業界。本書は歴史の中からその強み掘り起こし、生き残るための3つの道を提示する。文化と流行を牽引し、あらゆるモノとサービスを提供してきたかつての王は再起なるか。百貨店業界の今を知るためにぜひ。
【販売サイト】
https://www.eastpress.co.jp/goods/detail/9784781651224
「感性産業のブランディング グランドセイコー、ファクトリエ、超高密度織物DICROS、伝統工芸ブランドHIRUME」
(長沢伸也・編、海文堂出版、1500円)
山田敏夫・ライフスタイルアクセント代表取締役や吉岡隆治・第一織物代表取締役社長ら4人の実践者が、感性に訴えかけるものづくり/ブランドづくりの真髄を伝授する。早稲田大学ビジネススクール(WBS)で開講されたゲスト講義録シリーズ10冊目。セイコーウオッチの高級腕時計ブランド「Grand Seiko(グランドセイコー)」やメイドインジャパンにこだわる工場直結ファッションブランド「Factelier(ファクトリエ)」、第一織物の超高密度合繊織物ブランド「DICROS(ディクロス)」、伝統工芸ブランド「HIRUME(ヒルメ)」の事例を知れば、“感性産業”で成功するための秘訣が見えてくる。
【販売サイト】
http://www.kaibundo.jp/2020/05/72385/
「ラグジュアリーと非ラグジュアリーの店舗立地戦略 理想の自分, 現実の自分とブランドの関係」
(熊谷健、長沢伸也・監修、文眞堂、3200円)
ブランドのイメージづくりにおいて、店舗の立地は重要視されてきた。しかし、その出店戦略はブランドイメージの向上に本質的に貢献しているのだろうか。ファッション・アパレル業界の実務家でもある著者が、店舗の立地と消費者のブランドイメージの関係を実証実験から分析。ラグジュアリーブランドとその他のブランドそれぞれにおけるその有効性を検証する。終章では、研究結果に基づく店舗立地戦略に関する4つの提言を示した。ブランドビジネスの研究と実践を繋ぐ1冊。
【販売サイト】
http://www.bunshin-do.co.jp/catalogue/book5081.html
「職場体験完全ガイド 会社員編 67 ファッションの会社 ユニクロ・GAP・カシオ・資生堂」
(柾屋洋子・編、ポプラ社、2800円)
さまざまな業界・業種・職種を紹介するポプラ社の「職場体験完全ガイドシリーズ」。67巻では「ファッションの会社」をテーマに、「UNIQLO(ユニクロ)」のファーストリテイリングをはじめ、「GAP(ギャップ)」のギャップジャパン、電子機器・時計メーカーのカシオ計算機、化粧品メーカーの資生堂の4社を取り上げた。各社1人の社員にフォーカスを当て、その仕事をわかりやすく解説していく。児童書と侮ることなかれ。業界をリードする4社のSDGsへの取り組みや人事担当者のメッセージなども盛り込まれているため、業界で働いている人や業界を志望する人にも学びある内容になっている。
【販売サイト】
https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/7073067.html
「『古着転売』だけで毎月10万円──メルカリでできる最強の副業」
(しーな、技術評論社、1580円)
ビジネスコンサルタントの著者が、“古着転売”でサクッと稼ぐ方法を紹介。仕入れから販売、発送まで2次流通サービスの使い方や特徴などが章ごとに書かれている。購買意欲をそそらせる出品アイテム画像の作り方や集客を上げるための施策など、著者独自の具体的な方法論もあわせて解説していく。この本を読んで転売ビジネスを始める際には、古物商許可の取得もお忘れなく。
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【ファッション本2020年上半期新刊まとめ関連記事】
現場の仕事を通して得られる経験はもちろん重要だが、ファッション・アパレル領域のビジネスや文化に関する知識もそれと同等に欠かすべきではない。知識に基づいた経験と経験に裏付けられた知識の両方を併せ持つことが、ファッション・アパレル業界で働く上では大切だ。
知識を蓄えるために、そして自身の経験をより豊かなものにするため、以下の関連記事もあわせて読んでみてほしい。