D2Cアクセサリーブランド「gray(グレイ)」の企画・生産・販売、ECサイトの運営を手がける株式会社BRH。そのBRHを支えるメンバーと恩地祥博・株式会社BRH代表取締役の赤裸々なクロストークを通して、ありのままのBRHを映しだす連載「BRHのヒトと未来」。
初回となる今回は、BRHのものづくりを牽引するデザイナーの松本美穂子さんにご参加いただきました。
お2人のお話から、「ファッションをより良い方向に民主化する」をミッションに、これからの当たり前となる新しいファストファッションの確立を目指すBRHのリアルと、チームとしての熱意、目指すビジョンと求める人物像が見えてきました。
株式会社BRH<目次>
デザイナーを志したきっかけは家族のお土産
──自己紹介をお願いします。
松本:松本美穂子です。学生の頃はFashion Institute of Technology (FIT、ニューヨーク州立ファッション工科大学)にてファッション小物全般のデザインについて学びました。大学卒業後は日本のグローバル企業で働きたいという思いから国内最大手のスポーツメーカーに入社。グローバル本社にてアクセサリーデザインや一部アパレルデザインに約3年ほど携わったのち、現在はBRHでアクセサリー業務などデザイン業務全般に関わっています。
──松本さんがアクセサリーデザインに興味をもったきっかけと経緯についてお聞かせください。
松本:デザイナーになりたいと思ったきっかけは、私が幼少期だった頃、父が出張の度に母にお土産として買っていたジュエリーです。それがキラキラしてかわいくて、こういうものをつくってみたいと思うようになり、中学生の頃には美術大学を目指すようになりました。
大学受験のタイミングでは国内の大学への進学も検討していたのですが、幼少期に海外に住んでいた経験から、語学にも興味を持つようになっていたこともあり、ジュエリーを含む広義のアクセサリーデザインを学べるFITに進学しました。
──国内の大手スポーツメーカーで数年勤務されてからBRHに転職されていますが、その経緯についてお聞かせください。
松本:前職では研究所などと連携して問題解決を目的とした機能的なデザインに特化して携わっていたのですが、仕事をする中で対極にある感性的なデザインに対する関心が高まっていたんです。
学生時代はファッションを中心に学んでいたこともあり、もともと興味があった領域ではあったので、少しずつやりたいことがファッション領域に傾いていきました。そんな時に恩地さんからジュエリーデザイナーを探しているという連絡が来て。
──元々お2人は知り合いだったんですね。
松本:はい。最初に恩地さんに出会ったのはFIT在校生と入学希望者が集まる会でした。そこでFIT進学の相談にのったのがきっかけとなり、その後ニューヨークに来た恩地さんとは現地で一緒のインターンに参加したりして仲良くなりましたね。
恩地:よく課題を助けてもらったりしていたので、彼女は僕のニューヨークでの生活を支えてくれた1人です。
松本:連絡を受けて、ジュエリーデザイナーの友人を紹介したりしていたのですが、BRHの現在のフェーズや方向性を聞く中で、ジュエリーデザイナーになりたいという原点を思い出すようになり、私自身が1つ仕事の依頼を受けてみたんです。
恩地:彼女にはイヤカフのデザインを依頼したのですがそれがすごい売れたんですよ。
松本:そのデザインを評価してくださったことから、私が思うファッションの良さや業界の変えていきたいところなども話し合うことになり、その流れで恩地さんからお誘いを受けました。
恩地:彼女のプロダクトデザインの能力はもちろんですが、バイブスがあっていたし、BRHの海外進出というビジョンも理解してくれていたので、いろいろと協力してほしいと思い誘いました。
松本:もともと友達だったこともありオファーを頂いた時は嬉しかったですね。恩地さんのこともBRHでやりたいことも以前からよく知っていましたし、その夢を着実に叶えて行っている様子がすごく面白くて。近くで一緒にやりたいと感じ二つ返事でお受けしました。
社内メンバーを牽引するプロ意識とグローバル視点
──松本さんを誘った決め手とはなんだったのでしょうか?入社前後のイメージとあわせてお聞かせください。
恩地:彼女に声を掛けたタイミングは「gray」に転換が求められていた時期だったんです。
「gray」は当初、買い付けをメインにスタートしたのですが、新型コロナウィルスの流行などの影響により流通がストップしたため国内生産に切り替えざるをえなくなっていて。プロダクトでの差別化なくして成長も見込めないと考えていた時期でもあり、彼女にカジュアルに依頼したアイテムのデザインも素晴らしかったのでぜひお願いしたいと思いました。
今後BRHとしてもグローバル展開をしないという選択肢は1mmもないと考えています。そうなった時に海外のマーケットを理解している彼女の存在は重要です。なにより学生時代の苦楽を共にした旧知の仲ということもあり、彼女が1番僕のニュアンスを理解した上で海外への発信を手助けしてくれると厚く信頼を置いていました。ただ単にデザインを任せられる人よりも、BRHの方向性に共感してくれて一緒に走ってくれるパートナーを求めていたので「え、来ちゃうっしょ?」みたいな(笑)。
──入社後の松本さんの働きぶりについて教えてください。
恩地:彼女の指摘を受けて、「gray」のアイテムにはブランドロゴの刻印が入るようになりました。それまではコストの問題もあって入れられていなかったのですが、長期的な目標としてグローバル展開を目指すのであれば、ブランドとしてロゴの刻印が必要なのではないかと彼女から提案を受けたんです。その視座の高さは、国内を超えてグローバルに挑んでいくという前提があってこそだと思うので、いい刺激をたくさんもらえていますね。
──いまのお話は松本さんのものづくり・ブランドづくりに対する意識の高さを感じられるエピソードだと感じました。その視点はブランドが成長していく上で必要なものなのかもしれません。
恩地:ジュエリーデザインに関して、スキルある人であれば誰でもできることではありますが、「gray」のアイディンティティーや方向性を統合しながらアウトプットできる人はこれまでのBRHにはいませんでした。そのプロ意識や長期的かつグローバルな視点は僕を含めて社内メンバーにいい影響を与えてくれています。
なにかしらの商品について、そこに至るプロセスと商品の魅力を正確に言語化して説明できるのは彼女の強みです。彼女がその商品についてしっかり説明して提案できるからこそ、客観的に他のメンバーも判断ができますしマーケティングに際しても大きなメリットになります。組織拡大につれ、これまで感覚的に共有できていたことが難しくなることは明白です。
彼女に引き上げられるかたちで、他のメンバーの中でもロジックに基づいて説明しようとする気運が高まっています。そのことを心がけるみんなのスタンスがブランドを強くするはずなので、そのきっかけになってくれているのは本当にありがたいですね。
松本:こんな直接的にフィードバックをもらえるのはうれしいですね(笑)。恩地さんがおっしゃってくれたプロ意識は前職での経験で養われたものだと思います。グローバルで展開する企業の中でブランドの見せ方やデザイナーとしての考え方を学べたので有意義な3年間だったと思います。
ベンチャーで働くメリット
──あらためて、松本さんは大企業のスポーツメーカーからベンチャーのBRHに転職されていますがそれぞれでの働き方は大きく異なるように感じます。ベンチャーの働き方の特徴について教えてください。
松本:あくまで私の実感として、それぞれ真逆とまではいきませんが働き方は顕著に違うと思います。
例えば前職の場合は約10人のデザインチームで動くため、チームの中での役割や提案から製作までのフローが細かく分かれています。一方で、BRHでは私1人がデザインを担当しているため業務の幅も広く、より裁量権が大きくなっています。
現在私はECサイトのグラフィックや商品パッケージなどのビジュアルデザイン全般の業務にも携わっています。業務の幅も広くやるべきことも多いので、やりがいは強く感じられるかもしれません。
また、大企業の場合は商品提案から市場に出るまで数年単位の時間がかかるため、アウトプットしてからお客さんからの反応・フィードバックを得るまでのサイクルがベンチャーのそれと大きく異なります。BRHの場合は完全にお客さんと接点がある仕組みの中でものづくりをするため、ものをつくる立場としては参考になる情報が多い印象です。
加えて、大企業は基本的に業務フローや意思決定の制度などの仕組みが整理されていますが、ベンチャーの場合はそのタイムラインから考える必要があるため、より能動的に動かなくてはなりません。それぞれに働き方の特徴があるため自分の特性にあった現場で働けるといいかなと思います。
──自ら裁量を持って様々なことに取り組める点がベンチャーでの働き方のメリットってことですね。
個の成長が会社の成長に繋がる
──現在BRHの現場で働いていて面白みを感じたポイントを教えてください。
松本:社内メンバーに対する投資を惜しまない寛容さを感じていますね。直近で言えば、3Dモデリングを学びたいと直訴したらすぐにその意見を受け入れてくれました。現在セミナー費をお支払いいただきながら3Dモデリングについて勉強しています。
これまでは平面上で商品のデザインをしていましたが、モデリングソフトでデザインできた方がプロトタイピングのサイクルと生産スピードが向上する上、私自身がつくりたいものの実現性も高く、事前に社内でのデザイン共有もしやすいため、業務の効率的にもメリットがありました。会社の方向性と合致した提案は柔軟に受け入れてもらえる印象がありますね。
恩地:BRHはまだまだ人が少ないので、個人の成長が会社の成長に繋がることがベストです。自らやりたいと声を上げてくれるということは会社の成長にコミットして自分も成長しようとする意識あってのことなので、それを自費でやってくださいと言うのは全然違う。僕らは個で勝負しているので、その熱意を会社として全力でフォローしようとするのは自然なことですよ。
松本:あとは業務が被っていない違うチームのメンバーとそれぞれの知見をお互いインプットできる点が楽しいですね。違う領域を担当するメンバーと意見を交わす中で、会社の方針設定や組織体制づくりなどに直接関われるのは、現在のフェーズだからこその面白みなのかもしれません。
お客さんが喜べるプロダクトを
──では、松本さんが「gray」のデザイナーとして意識していることを教えてください。
松本:私が入社してから「gray」のブランドとしての方向性は日々アップグレードされているので、常にその変化をキャッチアップして進めています。
「gray」のアイテムをデザインする上で、2つの軸を想定しています。1つはベーシック。「gray」ではベーシックなデザインのアイテムが求められているのでその需要に応えるべく、どんな場面でもあらゆるファッションの邪魔にならない肌馴染みのいいアクセサリーをつくることを意識しています。
もう1つは、手にした時に心が一つ明るくなるもの。「gray」としてもベーシックなものにプラスアルファで新しい試みをし続けないとブランドの独自性はつくれないと思っているのでそのことも意識しています。
最近では「gray」のお客様のイメージがある程度見えるようになってきたので、お客様が着用していて違和感がないようなデザインを意識しながら、その上でありそうであなかった「gray」のらしさを構築できればと思っていますね。
恩地:僕らのプロダクトを喜んでくれる人って結構いるんですよ。街を歩いていても着けてくれている人をよく見かけますし、SNSでも発信してもらえていたりするんです。そういうのを見るとホッとしますね。そんなお客様1人1人を大切していきたいと考えています。
ただ、企業がスピードや効率を意識しすぎたり、デザイナーが自分のつくりたいものだけをつくるという態度になったりしたら、お客さんが喜べるプロダクトをつくるという当たり前のことが抜け落ちてしまいます。お客さん視点を持つことはどんな時でも重要ですし、その視点をデザイナーが意識できているかどうかでブランドの成長は決まってくる部分もあるはずです。あくまで僕らはモノを売る会社。お客さんがいいと思えるものを届けることが大事なので、そのスタンスは変えずそのままでいてほしいと思いますね。
たくさんの人にたくさんのハッピーを
──あらためて、BRHが掲げるミッションについてどのようなことを考えて働いているのですか?
松本:BRHはこれからの当たり前となる新しいファストファッションのかたちをつくるべく「ファッションをより良い方向に民主化する」というミッションを掲げて事業を展開しています。…今だから言えるのですが、入社当初は“新しいファストファッション”という意味があまりわからず、ファストファッションという言葉にいい印象がなかったので最初は戸惑いがあったんです。
そんな時に恩地さんから、ファストファッションはファストファッションでも、これまでの負の側面を払拭した良い循環でのファストファッションであればいいのではないか、より早くより広くの人にプロダクトを届けられるのではないか、と説明をうけて。ようやく「ファッションを楽しむことに悪い要素がなくなるっていいことしかないな」って共感するようになりました。
自分がつくったものでたくさんの人にたくさんのハッピーを与えられるなら、それ以上に嬉しいことはありませんよね。人間は他者を喜ばせるために生きているのではないか、なんて哲学的な話になるかもしれませんが、ファッションの民主化の背景がいいことだけならば大賛成です。それを聞いてもっと成長をサポートしていきたいと思っていまも働いています。
また、会社の方向性が変わろうと自分の働くスタンスは変わらないと考えているので、自分ができることややりたいことが会社の方向性と一致している限りは、会社と一緒に成長していきたいと思っています。
「同じレベルで会社を大きくしたいと思っています」
──今の現場で実現したいことや成し遂げたいことについてお聞かせください。
松本:現時点であれば、まずブランドの海外進出を絶対一緒にサポートしていきたいと思っています。あとは商品開発やデザインプロセスの整備にも貢献できればと思いますね。
良いファストファッションになるためにはデザイン開発の時点で無駄が出ないものづくりやお客さんへの提供スピードの短縮化など、生産過程・生産背景を整えることも必要なはずです。その面で私自身がデザイン開発のプロセスを理解した上で貢献できるのであれば取り組んでいきたいですね。
──デザイン環境のデザインを含めたメタレベルでのデザインを考えていきたいということですね。
松本:単なるデザイナーに止まるのではなく、プランドの方向性を踏まえものづくり背景まで考えていけるといいなと。その過程でブランドの海外進出があると思うので、それぞれ全力でサポートしていきたいです。
恩地:海外進出に関しては完全に彼女が中心人物です(笑)。
彼女がやろうとしていることは、この会社に本気でベットする覚悟がないとできないことですよね。失敗することや挫けてしまうことがたくさんあるとわかった上で、絶対に良くなると信じて取り組んでくれる彼女の姿勢にはとても助けられています。
グローバル展開を見据えたチームづくりをするためには、相応の視座の高さが必要になってきます。言うだけなら簡単ですが、本気でやろうとするのはとても難しい。もともとグローバル展開を前提に彼女を巻き込んでしまった部分があるので、一緒の船に乗ってくれたことは僕にとってもハッピーなことでした。その上で、今後のBRHをよりよくするために彼女はいろんな提案をしてくれているので頼もしいですね。
松本:生意気かもしれませんが、私も恩地さんと同じレベルで会社を大きくしたいと思ってます。ポジションこそ経営方ではありませんが、そんな志の高いメンバーでBRHが構成されているといいなと。
恩地:「BRHはレベルが違いますね」って言われる組織にしたいね。
松本:全社員が恩地さんが見据えている方向性に賛同して動けるともっといいかもしれませんね。
恩地:方向性を決める経営陣と実行してくれるメンバーが同じスピリットを持ってやれるかどうかが最終的な結果に関わってくると思います。なによりそれが人と一緒に働く面白さだと思いますね。
求めるはポジティブで明るく元気なメンバー
──今後デザインチーム含めて会社の拡大・増員が必要になってくると思いますが、その時に松本さんが一緒に働きたい人とはどのような人なのでしょうか?
松本:一緒に働く上では、ポジティブなコミュニケーションをできる人がいいですね。基本的にBRHはポジティブな人間が多く、「こうしていこう!」「ああしていこう!」とお互いに建設的な意見を交えながら物事を進めていく環境なので、自分が考えていることを発信できる人だといいですね。デザインチームに限れば、情報収集がうまくそれを自らに落とし込んでアウトプットできるような人だと理想的です。
恩地:彼女が言った通り、結局仕事は完全に人対人、ここで働けてハッピーだと思うのも人だし、この会社で働きたくないって思うのも人じゃないですか。どんな苦しい場面でも、「やろうぜ!」「とりあえず行くっしょ!」と言えたり、コロナを言い訳にせずやれることを探せたりするポジティブさってすごく大事だと思うんです。それぞれのメンバーが互いにリスペクトし合いながら背中を支え合える明るく元気な組織をつくっていきたいですね。
松本:BRHに入社していい人がめちゃくちゃ多いと思ったんですよ。メンバーが増えた今でも変わらず個性的ないい人ばかりです。それって恩地さんが人柄を見て採用しているからだと思いますし、なにより恩地さんの人柄に惹かれて入っているからこそいい空気感の中で一緒に仕事ができていると思っています。
恩地:これ大事だから書いてくださいね(笑)。
一同:(笑)
「僕は全く諦めないと先に言っておきます」
──松本さんは今後のキャリアについてどのようにお考えですか?
松本:私はキャリアプランはフェーズごとに変わるものだと思っているので、絶対こうなりたいというものはありません。いずれにせよ私は常に頑張っていけるタイプだと自覚しているので、常に自分をアップデートしていくことが軸になるかなと。その中で自分がやりたいことには一貫性があると思っているので、その延長線上でBRHと一緒にそだっていけたらいいですね。
恩地さんが結婚していてお子さんもいらっしゃるということもあり、BRHは女性に対しても優しく柔軟に対応していただける会社です。女性は特に人生フェーズがコロコロ変わりますが、自分の働き方や会社のスタンスと私のスタンスを調整しながら働き続けたいと思っています。
──最後にお互いに対するメッセージをお願いします。
松本:いつの間にかBRHにジョインして、その段階ではいまのような感情ではなかったので、本当に生きている中で何があるかわからないなと思っています。いまは恩地さんが叶えたい夢に私も何か貢献できたらと思っているので、全力でブランドをサポートしていきたいです。これからもよろしくお願いします!
恩地:僕は全く諦めないと先に言っておきます。BRHの進退は僕がどこまで食いしばってやり切るのかにかかってくることですが、僕は絶対に途中で投げ出すつもりはありません。そういう意味ではついてくる価値はあると伝えておきますね。
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