ファッションをテーマに活動している、若者のリアルや業界に対する声をありのままに届ける連載企画「若者VOICE」。本企画vol.2では、山口大学2年生の声に耳を傾けた。
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【地方のちいさな古着屋での経験から感じた、ファッションにおける「地産地消」の必要性】
野口 耕平
1996年生まれ。岐阜県出身。高校卒業後山口大学に進学し、現在はアメリカのオクラホマ大学に留学中。アルバイトで古着の買い取り・販売に携わっている。
ー今回の取材は、READY TO FASHIONのメンバーがfashionsnap.comにインタビューして頂いた記事に興味を持ってもらい、野口さんからコンタクトしてもらったことがきっかけ始まりましたね。
参考:【連載】「なぜ若者がファッション業界を目指さなくなったのか」VOL7:READY TO FASHION 石川義朗
野口: はい。石川さんの記事に関しては偶然見つけて読ませていただいたんですけど、READY TO FASHION の「若者と産業をつなげる」という視点からのファッションの捉え方って面白いなぁと思ってご連絡させていただいたのが始まりです。本当のところを言うと、僕がみなさんの考え方を盗んでやろうって思っていたんですけど、今のところ僕の考えてることが盗まれてる状態ですね(笑)
ーメールでやりとりしている中で、ファッションやクリエイティブなことを享受したり、この業界と関わるにあたって、「地方であること」が足枷(あしかせ)になっていると仰っていましたが、もっと詳しく教えて頂けますか?
野口: そうですね。ファッション業界の疲弊という点にも繋がるかと思うんですが、そもそも僕が大学生活を送っている山口県は、洋服屋さんが非常に少ないです。特に大学生が好むような大手のセレクトショップやブランドなどのお店は、ほとんどと言ってもいいほどありません。ただ最近はECの普及もあって、欲しい服があればネットで買えるので不便は無いのかもしれません。でも、人気のお店や洒落たお店の実店舗が少ないことで、地域や街の風土として”ファッションを楽しみづらい”環境になっていると感じています。これは買うことだけでなく、着ることも同様です。 でも実際には、山口にもクリエイティブな活動をしてらっしゃる方はたくさんいるんです。ただ地方の場合、そういった場所や人たちに光が当たりづらいというか。 これは言うまでもないことなんですが、日本のカルチャーの発信地は東京です。そして、それを地方が取って代わることは簡単なことでは無いと思います。そんな現状の中、僕が感じているのは、ファッションにおいても「地産地消」の様な考え方があってもいいのではないかということです。
—野口さんの考える「地産地消」というのは具体的にどういったことでしょうか?
野口: 地産地消というと、例えば“地元の農家さんが朝収穫したばかりの野菜がお昼前には地域のスーパーに陳列されて、各家庭の晩御飯として消費される”みたいな流れをイメージすることができると思います。ファッションにおいても、その地方で作られているものをその地方の人に消費してもらうことが理想的な形だと思うんです。 ただ消費されるまでのスピードは、野菜とファッションでは全く違います。さらに、ファッションにおける地産地消の場合は一般的なブランドよりもさらにスローになるのかもしれません。
“地産”の実例としては、山口では無いですが、例えば岡山には素晴らしいデニムを作っている工場が沢山あって、栃木には”栃木レザー”としてブランド化された産業がある様に、規模は違えど、地方ならではの尖った個性や歴史のある工場やお店は全国各地に沢山あると思います。 これらの地域産業としてのファッションを、その土地の人がおしゃれをする事、つまり消費することによって盛り上げていくことは、大手のブランドの店舗が撤退していく地方においては重要になると考えています。 大企業ではないからこそ出来ること、地方にあるお店だからこそ出来ることをやっている人達を、その地域の人たちに知ってもらい消費してもらうことで、この業界に従事する人もそれを消費する人も豊かになるのではないかと思っています。
—なるほど、ファッションの拠点が都会に集中している中、地方だからこそ出来ることってなんだと思いますか?
野口: そこで地方に何が出来るのか、というのは僕自身まだ明確な答えを持ってはいません。でも、例えば全国で発売されているファッション誌の中で”全国の古着屋さん特集”と題して、全国各地の古着屋さんの中に山口県にあるお店が紹介されたとします。僕はこの特集が山口県にいる雑誌の購読者の目に留まったとしても、大きな影響力は持たないと思います。 ある程度限定的な範囲の中での情報の方が注目されやすく、実際に消費するという行動に繋がりやすいとすれば、例えば広島・山口・北九州地区のお店であったりファッション産業を紹介する様な発信する機能を備えたものがあれば面白いんじゃないかと考えています。実際に組織として、大々的に行うことは、難しいかも知れませんが、今の時代TwitterやWebサイトであればコストを掛けずに制作・宣伝する事が出来る上、影響力も大きいのかも知れません。 ただ僕自身の好みの問題なんですが、アートやファッションという分野においては”アナログさ”が大切だと思っています。すごくおしゃれな人のスナップ写真を見るよりも、電車で偶然向かい側に座った人がおしゃれな人だった、って方がインパクトが強いじゃないですか。 例えば山間部の小さな町でファッションショーをやったりとか、商店街でゲリラ的にショーが始まったりとか、僕はそういう意外性のあることが好きです。地方や田舎のマイナスイメージを逆手にとって、”なんでこんなところで?”って思わせることもできますし。
—地方からそのようなムーブメントが起きると面白いですね。業界も注目するのではないかと思います。また、お話にあった広島の話ですが、私が広島出身だったこともあり、すごく共感しました。広島には、カイハラという、ジーンズ生地に使う高級デニムの生産量で国内トップシェアの50%、輸出のシェアは70%をも誇る会社があるのですが、学生の頃はこんなに素晴らしい企業が広島にあるなんてことは知らなかったです。当時、そのことを知っていればと後悔しています。
野口: まさにカイハラは一つのモデルケースだと思います。地方発のブランドや工場が世界的なものに発展することで、ファッション業界としてだけでなく地域の雇用や過疎地域の人口の減少などに関しても力を発揮するのではないでしょうか。
— 将来の展望や、目標があれば教えてください。現在は海外にて留学中ということですが、将来の目標に関係しているのですか?
野口: 今現在具体的になりたい職業があるわけではありません。ただ、”ファッションやアートなどの分野で人の生活を豊かにする”というのが今の僕の目標です。あくまでも職種はその目標を達成するための手段としか考えていません。 留学も同じです。例えば目の前に地球儀があったとします。この地球儀をどれだけ動かしても、同時にすべての国を見ることはできません。でも今までの経験や学んだことを活かせば、地球儀の裏側、見えていない部分にどの国があるのかはある程度想像できると思うんです。留学に関しても、様々なことを母国語ではない言語で学ぶことで、今まで自分の目では見えていなかった部分を考えるための手段だと思っています
— 同世代で注目している人がいれば教えてください。
野口: スポーツを見るのがとても好きなので、同い年のスキージャンプの高梨沙羅選手や体操の白井健三選手など、すでに世界中のライバルから追われる存在になっている人を見るとワクワクします。
— 同世代の若者に、伝えたいことはありますか?
野口: 僕なんかが偉そうに言えることではないかもしれないですけど、もっとバラバラでいいんじゃないかって思うことは良くあります。些細なことをするのにも誰かと一緒だったり、集団の中で浮くことを極端に恐れすぎなんじゃないかなって。”あまのじゃく”なだけなんですけど、僕は“浮いてなんぼ”くらいに思ってます(笑)。ファッションに関しても、人気の雑誌を見て”これを買おう”って思うのではなくて、自分の好きなものにとことん向き合う方が楽しいですし。もちろんファッション以外のことに関しても好きなものや、やりたいことがバラバラでいいと思うんです。むしろその方が自然だとも思います。
ーありがとうございました。
text: Satoshi.T
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