アパレル業界を目指す方、また現に働いている方のために、アパレル業界の最新動向を知ることができるニュースをピックアップする月刊連載企画「編集部が気になるアパレル業界ニュース」。
今回は、2023年にアパレル業界で起こった主要なニュースの中から、編集部が注目するニュースを独自に取り上げ、一年間を振り返ります。
アパレル業界ではどんなトピックがホットなのかを知ることで、企業選びや職種選び、面接対策などで役立つこと間違いなしです!ぜひご覧ください。
<目次>
アパレル業界平均年収は全体で+3万円に着地。一方で賞与なしの企業が多い傾向も
行動規制の緩和やインバウンド需要の増加により、店舗での売り上げも回復しつつあるアパレル業界。コロナ禍に比べ業績を伸ばした企業も散見されるようになってきました。そんなアパレル業界の給与や賞与はどのような変化があったのでしょうか。
アパレル業界の転職支援サービス「クリーデンス」が発表した、アパレル業界における2022年度の平均年収調査によると、平均年収の高い職種の順に、「マーケティング」、「MD・バイヤー」、「営業・店舗開発」という結果になりました。
マーケティングが前年に引き続き最高年収を維持していますが、前年比で最も上がったのは「店長」で14万円増、最も下がったのは「パタンナー」で27万円減という結果に。
同業界全体の平均年収は346万円で、前年の343万円に対して+3万円増で着地。年齢別では24〜35歳の全体の平均年収が前年から上昇した一方、35〜39歳の全体平均年収は減少したことが分かりました。
クリーデンスの分析によると、リブランディングや新業態の打ち出し、EC化率の増加、さらにはSNSの活用などを推進した変革により売り上げが回復し、人材に投資できるようになったこと、また物価高からの賃上げの流れにより業界内の年収もアップしたと見られています。
業界内の賃金に関するニュースといえば、ユニクロの国内正社員を対象とした年収アップの話題も今年の印象的な出来事でした。
ユニクロは、国内正社員の年収を数%〜40%アップする方針を発表。そのため、初任給は25.5万円から30万円、入社1〜2年目で就任する店長の収入は月29万円から39万円になるようです。
同社は通常、能力や実績などに基づく約20のグレードに応じて基本給を定めていますが、今回はこの基本給の水準が引き上げられます。
約20年前に現制度を導入して以来、初めての全面的な賃上げ。対象者数と在籍数から見ると該当する人は1割未満であり、役職手当が廃止されますが、賞与も含めた年収は上がる見込みだそうです。
一方で、冬のボーナスがない企業が40%超えという調査結果も出ています。
帝国データバンクは11月16日から30日までの間に全国2万6972社を対象に「2023年冬季賞与の動向調査」を実施。有効回答企業数1万1396社のデータをまとめた調査結果を発表しました。
旅館やホテル、賃貸などの観光関連、ポスターやチラシ関連を含む紙類・文具・書籍卸売などでは「賞与はあり、増加する(した)」と回答した企業が多かった模様。
一方で、繊維・繊維製品・服飾品小売業界で「賞与はない」と答えた企業が40.2%と、2年連続で40%を超える割合となりました。
今年度の「賞与はない」と答えた企業は全体の12.2%で、中でも繊維・繊維製品・服飾品小売と飲食店が高い割合のようですが、賞与を支給しない企業は年々減少しているとのこと。
今年12月にはサマンサタバサジャパンリミテッドが業績不振に伴い、今年12月に予定していた従業員の冬季賞与支給を取りやめたというニュースも記憶に新しいです。
そんな状況があるなか、2023年冬の賞与は、調査結果の79.9%の企業が支給予定。実質賃金の減少が続くなかで、賞与の増大が消費を拡大するきっかけとなることが期待されています。
参考:2022年のアパレル業界平均年収、473万円のマーケティング職が引き続きトップに
専門学校生が注目している企業・就職したい企業ランキング
繊研新聞社が全国の24年卒業予定の服飾専門学校生、約1300人を対象に実施した「就職意識調査」を行いました。
同調査によると、「注目している企業」「就職したい企業」は、どちらもアダストリアが1位という結果となりました。
アダストリアは「注目している企業」では昨年2位でしたが、就職したい企業で1位になったのは初めて。前年の7位からの躍進となりました。
今回の結果では、どちらの項目においても、前年ではトップ10圏外だった企業が2社ずつランクインするなど、順位の変動があったようです。
また「ファッション業界への就職を希望する」学生の比率が4年ぶりにプラスに転じ、91.2%という結果に。初任給がアップされたファーストリテイリングは昨年から順位を下げて2位となっています。
高い給与を払ってくれる企業というよりも、コロナ禍を経て今を楽しんで生きたいという考えから好きなブランドで働くことを重要視している学生が多い傾向にあるのでしょうか。
ちなみに23年卒を対象とした2022年の結果はこちら。
就職したい企業の1位はパルグループ。同社が1位にランクインしたのは初めてで、前年は5位。
上位となった企業を選んだ理由をみると、成長性が挙げられたのはもちろん、コロナ禍で広がったECに注力しているかどうかなども重要なポイントになっていたようです。
アパレル業界に新風を吹かすSHEIN
「SHEIN(シーイン)」は中国発の越境ECを行う企業。150以上の国と地域にサービスを提供し、いま急成長を遂げているブランドで、ファッションアイテムのほか、インテリア雑貨やキッチン・バス用品、ペットグッズ、コスメ、アクセサリーなど幅広い商品ジャンルを展開しています。
日本国内では、新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた頃に勢いを増し始めたSHEIN。本格的に日本に進出したのは2021年で、2022年3月には「東京ガールズコレクション 2022 S/S」に初出展。同年秋には大阪で期間限定ショップ、東京で店舗をオープンしました。
拡大を続ける一方で、多くの謎に包まれているため「謎のブランド」とも呼ばれている同ブランド。中国の経済メディア「晩点Latepost」によると、2021年度の売上高は200億ドル(約2兆9600億円)を超えているようで、ファーストリテイリングと同じかそれ以上の規模と予測されています。
そんなSHEINは、2023年8月24日、アメリカの大手アパレル「SPARC Group(スパークグループ)」の株式の約3分の1を取得することを発表しました。
スパークグループは、「フォーエバー 21(FOREVER 21)」や「ノーティカ(NAUTCA)」、「ブルックスブラザーズ」、「Reebok(リーボック)」などを展開するアメリカの大手アパレル企業。全世界で4280店舗、総売上高は127億ドル(約1兆8542億円)に達しています。
「SHEIN」の業務提携の狙いは、スパークグループが運営するブランドを「SHEIN」のECプラットフォームで販売し、さらなる顧客を掴むこと。株式の3分の1以上を取得したということは、株主総会で決議を否認する権利を得ることができるということ。この株式取得が両者にとってどのような変化をもたらすのか今後も動向に注目です。
複数の海外メディアは、「SHEIN」が米国証券取引委員会に非公開で新規上場の申請をしたと報じており、2024年に上場する可能性があるようです(※1 https://www.fashionsnap.com/article/2023-11-28/shein-ipo/)
「SHEIN」の企業価値はOpenAIなどのテック企業と並ぶ約660億ドル(約9兆8340億円)と推定されており、このまま成長すれば、「SHEIN」の売り上げは25年までに「H&M」と「ザラ(ZARA)」の合計を超えるのではないかという予測もあります。
豊富な商品を圧倒的な低価格で販売し、若年層を中心に人気を集める「SHEIN」ですが、「H&M」や「ステューシー(STUSSY)」、「ドクターマーチン(DR. MARTENS)」などと係争中であるなど、著作権侵害などによる訴訟トラブルをいくつも抱えています。
また「“一回着用して捨てる”という、『H&M』や『ザラ』が離れようと努めている以前の消費方式を復活させてしまった」というファストファッションの流れを懸念する見解も出てきています。(※2 https://www.wwdjapan.com/articles/1610233)
長時間労働などの劣悪な労働環境や個人情報の漏洩などの懸念が絶えない現状もあるなか、今後どのようにこれらの問題に対応していくのか注目が集まります。
参考:中国発の大人気格安ネット通販「SHEIN」が、“謎の企業”といわれる理由
三陽商会が営業黒字。バーバリーのライセンス事業を失って以来7期ぶり
百貨店を販売網の主体とする三陽商会。同社の2023年2月期連結業績は、売上高が582億円(前期プラス196億円)、営業損益が22億円の黒字(前期10億円の赤字)、純損益が21億円の黒字(前期6億6100万円の黒字)でした。
営業損益が黒字になるのは7期ぶり。主力事業であったバーバリーのライセンス事業を失って以来の黒字となります。
回復の背景には、行動制限の解除によるリベンジ消費や、インバウンドが増加したことによる都心百貨店の売り上げ好転などの要因が挙げられます。
三陽商会の売上構成比は百貨店が65%と、半数以上を占めています。ECなどの伸びもあり、2014年の77%を占めていた数値からは下がっているものの、いまだ百貨店を主力としています。
そこに、円安観光を楽しむ欧米観光客や、東南アジアの富裕層による百貨店の業績回復が連動して好影響を受けているようです。
バーバリーとのライセンス契約があった2014年決算では売上高が1109億円だったのに対し、ライセンス終了後の2016年決算では676億円と、売り上げの約4割が減少。バーバリーの冠が取れたことによる大きな打撃を受けました。
その後、4回にわたる希望退職者の募集や銀座に構える自社ビルの売却、大規模な店舗閉鎖、新ブランドの出店拡大などに取り組んだものの、実を結ぶことはありませんでした。
そして、13年以来、元三井物産の商社マンで、ゴールドウイン再建の実績を持つ大江伸治氏が20年5月に社長に就き、徹底した構造改革を進めてきた背景もあり、今回の7期振りの営業黒字に転じました。
売上高は582億とバーバリーとライセンス契約を結んでいた頃からは程遠いですが、会社の規模感として現在が適正値と見る声もあるようです。
今期(24年2月期)は、売上高595億円、営業利益24億円、純利益22億円と増収増益を予想。黒字化に成功した三陽商会が今後どのように業績を伸ばしていくのか、注目したいです。
参考:三陽商会が7期ぶり営業黒字 “バーバリー・ショック”以来
ChatGPTの台頭 アパレル業界における生成AIの活用法とは
ChatGPTとは、質問や要望を投げかけると、それに応じた回答を返してくれるテキストベースのチャットAI。
2022年11月末にアメリカのAI研究会社であるオープンAIからリリースされて以降、文章の添削や校正、要約だけでなく、ブレインストーミングやアイデアの提案なども行う躍進的なAI技術に注目が集まりました。
ベネッセi-キャリアの新卒向け就活支援サイト「dodaキャンパス」の調査では、大学3、4年生(25年卒、24年卒)の4人に1人が就活で志望動機や自己PRの作成にChatGPTの利用経験があるとしています。
また人材・広告関連サービスの学情が、20代の社会人に仕事におけるチャットGPTの使用を調査したところ、7割近くが仕事でのチャットGPT利用に前向きな姿勢を示しています。
アパレル業界における生成AIの活用では、2023年6月にGoogleが同社でのオンラインショッピングの検索機能に生成AIを導入。アメリカで一般公開を開始しています。
この機能では、生成AIモデルを利用してフィッティングが行えるバーチャル試着機能と、消費者が欲しいアイテムを見つけるための検索調整機能を新たに開発。現段階では、両機能ともにウィメンズのトップスアイテムの検索のみで使用できるようですが、今後はメンズアイテムにも拡大していくそうです。
国内のアパレル業界では、メルカリが売れ残り品の出品者に商品タイトルと価格の改善を提案するAIアシストをアプリに実装したり、豊島がAIでバリエーションを生成して、キーワード選択で生地のプリント柄を提案するシステムを導入したりしています。
百貨店の売り上げが回復傾向
三越伊勢丹ホールディングスが通期連結業績を発表し、2023年3月期・7月期ともに大幅な増収増益を達成。7月期累計の三越伊勢丹ホールディングス総額売上高は前期と比較して13.3%増の5614億円に着地しました。
首都圏を中心とする三越伊勢丹が業績を牽引。なかでも、伊勢丹新宿店では3276億円を計上し、1992年3月期以来31年ぶりに過去最高の総額売上高を更新しました。
伊勢丹新宿本店の年間客数は19年3月期と比較すると、8割程度の水準に留まったそうですが、そのぶん1客当たりの売り上げを大きく伸ばしたことが最高業績につながったそう。
伊勢丹新宿店をはじめとする百貨店事業では、「マスから個へ」をテーマに主に富裕層や上位個客とのつながりを深める戦略や識別顧客(顔が分かる顧客)に対する「高感度上質戦略」を推進し、功を奏しました。
「高感度上質戦略」では、識別顧客の最上に位置付けられる外商顧客に対して、MDと外商セールスが連携してニーズを深堀りし、百貨店で扱っていない商品も取り寄せるようにしたのが好調の要因のようです。
こうした施策により、23年3月期の伊勢丹新宿本店と三越日本橋本店の両本店の売上高の内訳を見ると、識別顧客による購買シェアが20年3月期の50%から約70%まで上昇。また識別顧客の約半数が年間100万円以上を購入していることが分かっています。
伊勢丹新宿店では、年間購買額が高い顧客のみが利用できるラウンジで列ができることもあるといい、富裕層をターゲットとしたことで百貨店のV字回復が実感できます。
またインバウンド需要の回復により、前年比で279%増の急成長を記録。コロナ前の2018年と比べても15%増加していますが、まだ戻りきっていない中国人観光客のインバウンド消費が今後も期待されています。
今後は更なる売上拡大を目指して、ラグジュアリーブランドや宝飾品、時計の取り扱いを拡大するとともに、プレミアムサロンの新設や将来的にはプライベートブランドの立ち上げも視野に入れるようです。
また、百貨店という枠を超えたサービスも展開予定。取引先などと連携し、海外ブランドのショールーム訪問やパリコレクションのショー観覧のツアーを企画・同行サポートするなど「百貨店外MD」にも注力していくとのこと。
百貨店マーケットが縮小し売上減少傾向にあった百貨店ですが、今後どのような変革を起こしていくか、動向に注目です。
参考:三越伊勢丹HDが統合後上期の最高益を達成、インバウンドが回復 エムアイカードは無料プラン導入へ
伊勢丹新宿本店の売上高が31年ぶりに「過去最高」を更新した理由 バブル期超えの3276億円
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