トレーサビリティとは

トレーサビリティ(Traceability)とは「Trace(追跡)」と「Ability(能力)」を組み合わせた造語。一つの製品がいつ・どこで・誰によって作られたのかを明らかにすべく、原材料から生産、流通、販売に至るまでのサプライチェーン全体を追跡可能な状態にすることを指します。

日本では牛肉の産地偽装や消費期限切れの食品の販売などが大きな問題となったことがきっかけで、食品業界がいち早くトレーサビリティを導入しました。

近年では安全意識の高まりなどからも、自動車や電子部品をはじめ医薬品、運送など幅広い業界に浸透しています。

アパレル業界でのトレーサビリティの意味も同じく、原料となる作物の栽培や毛をとる動物の飼育、生地の縫製、衣類の製造、完成した製品を倉庫や店舗、消費者に配送するまでの全ての工程を指します。

世界的にサステナブルな取り組みが進む中でトレーサビリティが新しい視点から注目されるようになりました。

現在に至っては、着ているウールがどの羊から提供されたのかを服のタグから遡れるブランドなどが登場しています。

アパレル業界におけるトレーサビリティ

アパレル業界でトレーサビリティが重要視されるようになった背景

一般的に華やかなイメージのあるアパレル業界ですが、ファッション史上最悪な事故とも呼ばれるラナ・プラザ崩落事故によって製造段階に隠れていた問題点が明らかになりました。

2013年4月24日、バングラデシュのダッカから北西20kmにあるシャバールで、8階建ての商業ビル「ラナ・プラザ」が耐震性を無視した違法な増築を繰り返していたことによって崩落。死者1,127人、行方不明者約500人、負傷者2,500人以上が出た大事故となりました。

このラナ・プラザには世界的アパレルブランドの下請けである5つの縫製工場が入居していました。

調査が進むにつれ、ラナ・プラザに入っていた縫製工場はスウェットショップ(搾取工場)と呼ばれるもので、低賃金かつ劣悪な労働環境で労働者を働かせていたことが発覚。ファッションブランド側は労働環境について知らなかったと回答し、自社ブランドの服がどのように作られているのかが分からないアパレル業界のサプライチェーンの不透明さが浮き彫りとなりました。

服一着を作るにあたるCO2の排出量は500mlペットボトル255本製造分、水消費量は浴槽約11杯分にもなります。

劣悪な環境で働かせていないかという労働環境の把握だけでなく、環境負荷の把握を求める動きが高まっており、国内企業も対応が求められています。

トレーサビリティのメリットと課題点

トレーサビリティは環境的・社会的影響を最小限に抑えるために重要です。

消費者側は「安く購入できた洋服が、児童労働や劣悪な労働環境、環境負荷のもと作られたものだとは知らなかった」ということにならず、環境や人権を守って作られた商品を選ぶことができます

また製造者にとっては、製品に問題が生じた際の原因究明や回収作業が容易になります。加えて、リサイクル素材の活用など、サステナブルな取り組みを証明するためにもトレーサビリティが有効です。

トレーサビリティには各サプライヤーとの連携が重要であるにも関わらず、生産の最終段階で衣服の裁断、縫製、仕上げを行う一次サプライヤーを開示しているブランドは、2023年では52%と、半数近くのブランドは情報開示していません。(参照:https://issuu.com/fashionrevolution/docs/fashion_transparency_index_2023_jpver_fin

情報を提供する側の下請け会社は、自社の利益にならない不必要な作業を他社のためにどこまでできるのか、という課題点があります。

またブランドはサプライヤーとの取引を頻繁に開始・停止するため、年に2回の定期的な情報更新が不可欠など、まだまだ課題はあるようです。

アパレル業界でのトレーサビリティが難しい理由

グローバルに分業化された長く複雑なサプライチェーンがアパレル産業の特徴です。

衣服には色々な素材が混合されており、海外における生産段階では数多くの工場や企業によって分業されているため、原材料の調達から最終製品までの全工程を管理し、労働や環境への負荷を把握して透明化するのはほとんど不可能と言われています。

また、自社工場を持っているアパレル企業はごくわずか。商社に生産委託された製品を製造するのですが、商社はさらにその子会社に委託生産し、委託生産された子会社はさらに人件費の安価な工場に委託していることもあります。

そこにアプローチするため、サステナブル製品であることの証明をする第三者機関による国際認証があります。「GRS(Global Recycle Standard)」による認証や「 GOTS (Global Organic Textile Standard )」、「Bluesign」などがあり、それぞれ厳しい基準を設定しています。(参照:https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/

アパレル業界での実際の取り組み6例

「より少ない」で100%追跡可能を実現する「ASKET」

スウェーデンのストックホルムに店舗を構える「ASKET(アスケット)」は、アパレル業界をスローダウンさせ、衣服の製造・販売・消費の方法を変えることを使命として2015年に設立されたブランド。100%のトレーサビリティを目指し、高品質な衣類を作ることで「より少ない」ことを追及しています。

同社の製品の90%以上はトレーサビリティが保証されており、ウールコートやカシミアセーターなどの多くの製品は100%追跡可能な原料と工程を経て生産されています。

全ての契約工場のリストを公開する「patagonia」

アメリカ発のアウトドア用品を取り扱うブランド「patagonia(パタゴニア)」。環境破壊に対して独自の理念を持って取り組む企業として広く知られていますが、同社では、2007年にサプライチェーン情報を公開するサイト「フットプリント・クロニクル」を開設。全ての契約工場のリストを公開しています。

また全ての一次サプライヤーに対して社会的・環境的監査を行っています。

アマゾン火災にアプローチした「VFコーポレーション」

「THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス) 」や「TIMBERLAND(ティンバーランド)」、「VANS(ヴァンズ)」などを傘下にもつVFコーポレーション。

サプライチェーンの情報を消費者に共有するために、2016年に全製造工程を可視化したトレーサビリティマップの開発に着手し、18年からホームページで掲載しています。

データ化されている製品は主要な商品に限られており、追跡できる製品数はまだ少ないです。

ただ同社は、ブラジルなどアマゾン熱帯雨林で森林火災が広がっている問題に対して、火災が続くあいだは同国からの皮革輸入を中止すると発表するなどアパレル企業として環境問題にアプローチしています。

このニュースは2019年当時、大手企業がアマゾン火災に対応した経営方針を打ち出すのは初めてということもあり注目を集めました。

VFジャパン株式会社の詳細はこちら

トレーサビリティを徹底したコットン糸ブランドを運営する「豊島株式会社」

愛知県に本社を置く国内大手繊維商社、豊島株式会社。綿花・羊毛などの素材から原糸、テキスタイル、製品までの幅広い繊維品の卸売・輸出入を展開しています。

同社では、オーガニックコットンを増やす取り組み「ORGABITS」をはじめ、トレーサビリティを徹底したオーガニックコットン系ブランド「TRUECOTTON」を発売するなど、トレーサビリティへの取り組みも積極的に行っています。

これらの取り組みにより、オーガニックコットンの取引量は45%増加し、「TRUECOTTON」の取引量は2倍に増加しました。

豊島株式会社の詳細はこちら

支援内容を選択可能なザンビアコットンを使用する「株式会社ビームス」

老舗セレクトショップ「BEAMS」では系列ブランドである「Pilgrim Surf+Supply(ピルグリム・サーフ+サプライ)」において、アフリカのザンビアコットンを使ったTシャツを販売しています。

売り上げの一部が零細綿花生産農家の支援に使われる仕組みで、購入者が商品タグのQRコードから支援内容を選ぶことができます。

このザンビアコットンのTシャツは、三井物産のトレーサビリティプラットフォーム「ファーマーズ360°リンク」を活用して生産したもの。アフリカの農業商社ETGとの取り組みで、アパレル製品などのサプライチェーンを可視化し、生産者支援の輪を広げています。

ビームスのほか、サザビーリーグの「Ron Herman (ロンハーマン)」などもこのプラットフォームを使用した製品を発売しています。

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三谷温紀(READY TO FASHION MAG 編集部)

2000年、埼玉県生まれ。青山学院大学文学部卒業後、インターンとして活動していた「READY TO FASHION」に新卒で入社。記事執筆やインタビュー取材などを行っている。ジェンダーやメンタルヘルスなどの社会問題にも興味関心があり、他媒体でも執筆活動中。韓国カルチャーをこよなく愛している。

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