2020年上半期に出版されたファッション・アパレルにまつわる新刊60冊を、「ビジネス編」「エッセイ・ファッションブック編」「批評・研究編」「テキスタイル編」「着物編」の5つのテーマに分けて紹介する。
本記事では「着物編」と題して、10冊の新刊をピックアップ。
販売サイトのリンクも掲載しているので、気になる本があればぜひ購入して読んでみてほしい。
<目次>
「ようこそきものの世界へ[英訳付] An Introduction to Kimono(In English and Japanese)」
(長崎巌、東京美術、2200円)
きものを知るならまずはこの本。きものの歴史から代表的な技法と素材、関連する装飾具まで、きものの基本情報を一挙にまとめた入門書。
日本文化に関心を持つ海外の人も楽しめるように、全てのテキストに英訳文が併記されているため、国内外問わずきものを知りたい人にはこの本をおすすめしたい。100点以上のオールカラー図版が読む人を魅了する。
日本の伝統文化の粋、きものの世界を深く堪能するために手に取ってみてほしい。
【販売サイト】
https://www.tokyo-bijutsu.co.jp/np/isbn/9784808711559/
「着物ことはじめ事典 美しい着こなし 装う楽しみ」
(石田節子・監修、マイナビ出版、980円)
オールカラーの写真・イラストと共に、着物の種類や関連アイテム、TPOから季節ごとのコーディネートまで微細に紹介する同名書の再編集・文庫版。着物スタイリストの石田節子・石田節子流着付け教室代表が監修した。着付けの工程も段階ごとに丁寧に解説されているため初心者にもわかりやすい。複雑に見える着付けもこの本があれば習得できるはず。着物の楽しみ方の参考に。
【販売サイト】
https://book.mynavi.jp/ec/products/detail/id=113273
「原由美子の大人のゆかた きものはじめ(フィガロブックス)」
(原由美子、CCCメディアハウス、1300円)
きものに馴染みがない人の中にも、ゆかたなら親しみがあるという人は多いのではないだろうか。
そんな夏の風物詩・ゆかたの着こなし方をスタイリスト・原由美子が提案する。カラー写真で紹介されるコーディネートが艶やか。
ゆかたを入り口に、きものの世界に触れてみては。巻末には帯の結び方やゆかた小物、きものの名称を解説するコラム付き。「フィガロジャポン」での連載を書籍化した同シリーズ「原由美子のきもの上手 染と織」(2019年、2000円)と「原由美子のきもの暦」(2015年、2000円)もあわせてぜひ。
【販売サイト】
http://books.cccmh.co.jp/list/detail/2440/
「きものが着たい」
(群ようこ、KADOKAWA、1500円)
着物は着てみたいけれど、あと一歩が踏み出せない…。
そんな着物初心者の背中を、作家・群ようこが押していく。手入れ方法からリサイクルショップの活用法まで、細かな場面のアドバイスを通して、初心者の疑問や悩みに答えていくきものエッセイ。巻末には、きものの基本情報などを解説したガイドを付録。おすすめ店舗や書籍など、初心者の参考になる情報が多数掲載されている。「“着物警察”が怖い…」という人は読んでみると面白いのでは。
【販売サイト】
https://www.kadokawa.co.jp/product/321912000326/
「きもののちから 高島屋の呉服と歩んだ50年(わが人生18)」
(池田喜政、神奈川新聞社、1500円)
きものに魅入られ、きものと共に生きた半生。
著者の池田喜政・染織五芸池田企画代表が、高島屋MD本部呉服DVディビジョン長を経て、きもの文化の普及に尽力する現在までの歩みを振り返る。きっかけは、思いがけず配属された高島屋呉服部門。当初は困惑していた著者も、きものの世界を知るにつれ徐々にめり込んでいく。著者曰く、「たとえ自分の意に染まない職場や部署に配属されても、仕事を好きになればたいていのことには耐えられる。そうすれば仕事が面白くなる」(P.182)。仕事論としても優れた1冊。
【販売サイト】
https://www.kanagawa-shimbun-bookbar.com/book/200401.html
「三越 誕生! 帝国のデパートと近代化の夢」
(和田博文、筑摩書房、1600円)
1905年、株式会社三越呉服店の「デパートメントストア宣言」から日本の百貨店の歴史は始まった。現在の三越の前身である三井呉服店が三越呉服店に名を改めた1904年から、三越呉服店本館新館(現在の日本橋三越本店)をオープンさせた1914年までの10年間の歴史を追う。“東アジアの帝国”としての威信を示す役割を担いつつ、当時の流行・文化の最前線にあった三越から近代日本の姿が浮かんでくる。百貨店業界の今を書いた「百貨店・デパート興亡史」(梅咲恵司、イースト・プレス、860円)とあわせて読まれることをおすすめしたい。
【販売サイト】
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480016881/
「きものとデザイン──つくり手・売り手の150年」
(島田昌和・編、ミネルヴァ書房、3000円)
江戸時代から現在にかけての着物・織物産業の変遷を見通し、着物におけるデザインの意義を問い直す。生産の現場と流通・小売の現場の分析を通して、着物のデザインの変化と消費動向の相関を考察する意欲的な論集。10人の専門家が、生産技術革新による産地の発展、百貨店による流行創造、近年の業界の取り組みなどを書いた。現在の着物産業は度重なる市場環境の変化や、高級品市場への絞り込みなどが悪影響となり、衰退の一途を辿っている。生きた産業として輝きを取り戻すために、今一度その歴史と文化の足跡を辿り、デザインの重要性を再確認するべきなのではないだろうか。
【販売サイト】
https://www.minervashobo.co.jp/book/b506846.html
「近代図案帖 寺田哲朗コレクションに見る、機械捺染の世界」
(京都工芸繊維大学美術工芸資料館・監修、並木誠士・青木美保子・上田文、青幻舎、1500円)
京都染織産業の中核を担った機械捺染に迫る。紙幅の大半を占めるのは約240点の匠の技。捺染図案家の寺田哲朗が手掛けた色鮮やかで多様なデザインは、眺めているだけでも楽しめる。ほかにも機械捺染や図案家の歴史などに関するテキストも多数掲載。現在の機械捺染業者のレポートや図案家としても活躍した日本画家の竹内浩一へのインタビューなど、現場の仕事にもフォーカスした構成になっている。
【販売サイト】
http://www.seigensha.com/books/978-4-86152-773-9
「ニッポンの型紙図鑑」
(加茂瑞穂、青幻舎、1500円)
小袖や浴衣の生地に絵柄を染めるために使われた型紙。完成品の生地や着物に隠れていたその道具が、いま日本固有のデザインとして再評価されている。型紙屋を前身に持つ株式会社キョーテック所蔵の約1万8000点の型紙から、厳選した約180点を62のテーマから解説文を添えて紹介。型彫師の高い技術力で彫刻されたそのデザイン性の高さに魅せられる。キョーテックが持つ型紙のデジタルアーカイブ化をサポートした立命館大学アート・リサーチセンター(ARC)は、独自の型紙データベースを公開している。そちらもあわせて見ると、型紙の世界をより楽しめること間違いなし。
【販売サイト】
http://www.seigensha.com/books/978-4-86152-775-3
「江戸時代の流行と美意識 装いの文化史」
(谷田有史・村田孝子・監修、三樹書房、2800円)
さらに遡り江戸時代へ。髪型、髪飾り、化粧道具、喫煙具、着物の流行を、フルカラー掲載の資料図版とともに紹介していく。女性の装いを中心に、男性の装いや当時のファッションリーダーを専門家によるテキストと共に解説。江戸時代の美意識が宿る装いから、当時の生活が浮かび上がってくる。たばこと塩の博物館とポーラ文化研究所が1991年に共催した特別展の図録に、加筆・修正を加えた2015年刊行書籍の新装版。
【販売サイト】
http://www.mikipress.com/books/2020/01/post-314.html
【ファッション本2020年上半期新刊まとめ関連記事】
現場の仕事を通して得られる経験はもちろん重要だが、ファッション・アパレル領域のビジネスや文化に関する知識もそれと同等に欠かすべきではない。知識に基づいた経験と経験に裏付けられた知識の両方を併せ持つことが、ファッション・アパレル業界で働く上では大切だ。
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