2020年上半期に出版されたファッション・アパレルにまつわる新刊60冊を、「ビジネス編」「エッセイ・ファッションブック編」「批評・研究編」「テキスタイル編」「着物編」の5つのテーマに分けて紹介する。
本記事では「テキスタイル編」と題して、7冊の新刊をピックアップ。
販売サイトのリンクも掲載しているので、気になる本があればぜひ購入して読んでみてほしい。
<目次>
「布のちから 江戸から現在へ」
(田中優子、朝日新聞出版、810円)
自然と人間のあいだを結ぶメディア、布。近代産業化とグローバリズムにより人の手を離れたその特別な「もの」には、あらゆる意味が織り込まれていた。テキスタイルに対して強い想いを抱く著者が、歴史の中から、あるいは地域文化の中から、布が本来持つ価値を拾い上げていく。後半では「日本の織物紀行」と題して、産地を巡りつくり手に触れた記録を載せた。いま再び、世界への手触りを取り戻すために、豊潤なる布のちからを知ってほしい。
【販売サイト】
https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=21873
「手織りの組織図事典」
(彦根愛、グラフィック社、3500円)
著者が一重組織の織サンプルを7年かけて制作・収集してまとめた織物組織事典。テキスタイルの基礎的な組織である平織、斜文織(綾織)、朱子織の三原組織をベースにした事例や、それらの組み合わせで生まれる混合組織含む特別組織など43事例を解説する。各織り方ごとに実際のテキスタイル写真と完全意匠図を掲載。経糸と横糸の組み合わせだけで数多のバリエーションが生まれるテキスタイル。その奥深さと多様性に圧倒される。
【販売サイト】
http://www.graphicsha.co.jp/~graphicsha-co-jp/detail.html?p=40553
「アフリカ布見本帖」
(清水たかこ・編、玄光社、2300円)
アフリカンプリントやワックスプリントなどさまざまな呼ばれ方をするアフリカ布。ダイナミックな柄や色で見る人にインパクトを与えるそのテキスタイルの魅力をまとめて紹介する。豊富なテキスタイル写真からその個性的なデザインの力強さが伝わってくる。テキスタイル写真以外にも、アフリカ布の歴史に触れるコラムやアフリカ布を扱うショップのオーナーやデザイナーへのインタビューなどのテキストも充実している。
【販売サイト】
http://www.genkosha.co.jp/gmook/?p=22320
「世界を歩く、手工芸の旅」
(青幻舎編集部・編、青幻舎、2500円)
タイ、インド、チェコ、リトアニア、グアテマラ、ブルキナファソ、ナイジェリア…世界各地の手しごとに出会える旅の記録。買い付けのために訪れた土地での人々との関わり、受け継がれてきたものづくりの価値を語る18人の言葉をまとめた。豊富な写真がその土地で生まれたテキスタイルや工芸品の美しさを教えてくれる。巻末には本書で紹介したショップのリストを掲載。ひとりひとりの物語から、土地ごとの文化への強い想いが伝わってくる。
【販売サイト】
http://www.seigensha.com/books/978-4-86152-783-8
「お蚕さんから糸と綿と」
(大西暢夫、アリス館、1500円)
「糸は生きている。 命あるものからできている。」(P.32)。滋賀県の山間集落に残る養蚕農家が、お蚕さんを育てて生糸や真綿をつくるまでを写した写真絵本。餌やりの風景、お蚕さんが繭をつくる様子、その命を絶ち糸を取る姿、真綿をつくる姿…養蚕農家の方々とお蚕さんの営み、そのひとつひとつが美しい。いま着ている服も身の回りにあるものも、何らかの命がかたちを変えてここにある──そのことを忘れないようにしたい。
【販売サイト】
http://www.alicekan.com/books/post_197.html
「養蚕と蚕神──近代産業に息づく民俗的想像力」
(沢辺満智子、慶應義塾大学出版会、5600円)
開国以後の日本は、最先端の科学知と天皇制イデオロギーを巧みに取り入れながら蚕糸業の主要国策産業化を押し進めたが、蚕という生命を取り巻く営みは主な育て手である女性の肌身から離れることはなかった。切り分けて語られることが多かった近代産業化過程と養蚕農家の身体的実践の連関を、蚕を育てる女性に広く信仰された蚕神・金色姫を糸口に丁寧に撚り合わせていく。産業化を押し進める公権力と民族的想像力に支えられた養蚕農家との相互作用・相互依存のもと、絶妙なバランスで成り立っていた近代蚕糸業のダイナミズムの実態を描いた良書。端々に、養蚕農家でのフィールドワーク経験に基づいたきめ細やかな描写が光る。
【販売サイト】
https://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766426441/
「『女工哀史』を再考する──失われた女性の声を求めて」
(サンドラ・シャール、京都大学学術出版会、6200円)
細井和喜蔵の「女工哀史」に象徴されるように、製糸女工は搾取される犠牲者として描かれるばかりで、主体的な存在として描かれることはなかった。著者は、従来の「女工哀史」観を批判的に検討し新たな解釈の可能性を探求すべく、明治後期から大正にかけて女工たちに歌われた「糸ひき歌」と戦前期に製糸工場で働いた元女工70人の語り──製糸女工の「声」──に耳を傾ける。調査分析の結果からは、記録資料などから抜け落ちていた血の通った製糸女工の生活史が浮かび上がってきた。近代以降の繊維業界における女性の労働史観に新たな視点を与える1冊。
【販売サイト】
https://www.kyoto-up.or.jp/books/9784814002313.html
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現場の仕事を通して得られる経験はもちろん重要だが、ファッション・アパレル領域のビジネスや文化に関する知識もそれと同等に欠かすべきではない。知識に基づいた経験と経験に裏付けられた知識の両方を併せ持つことが、ファッション・アパレル業界で働く上では大切だ。
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