前編・中編ではリクルートスーツの1950年代から2010年代までの変遷を当時の社会情勢を踏まえながらご紹介していきました。
現在の黒のリクルートスーツもこれまでの社会情勢を反映したものであり、昨今の時代の流れの中で新たなトレンドが見られます。後編ではその例をいくつか紹介した上で、今後の就活の服装について考えていきます。
中編はこちら↓
コロナ禍で変わったリクルートスーツ
各方面に甚大な被害をもたらした新型コロナウイルスの流行。就活市場は最も打撃を受けた分野の一つと言えるでしょう。21卒の学生は採用の縮小や説明会の中止、オンライン選考への移行など、不安の多い就活になったと思います。この状況はリクルートスーツのあり方にも影響を与えました。
2020年10月にキャリタスが行った就活費用に関する調査によると、2020年度の費用の合計の平均は9万7535円で、前年と比較すると約4万円減少しています。最も減少が大きかったのは交通費で、その次がリクルートスーツ(靴・シャツ含む)代です。これはコロナ禍においてオンライン化が急速に進んだことが影響した結果だと考えられます。つまり、コロナ禍以前の就活よりもリクルートスーツを着る機会自体が減ったと言えるでしょう。
オンラインでの面接では上半身しか画面に映らないため、上はスーツ、下はスウェットという格好で面接を受ける学生もいたようです。ただ、思いもよらず下半身が映ってしまうこともあるので、面倒くさがらずに下も着替えることをおすすめします。
また、リクルートスーツからは少し離れますが、コロナ禍において「オンライン映え」という言葉を耳にする機会が増えました。ウェブカメラは画面が暗くなりがちだったり、白飛びしやすいことがあり、オンライン面接に挑む就活生を悩ませています。
「オンライン映え」するために、ユーチューバーのような顔用ライトを使う、顔の凹凸を強調させたメイクをする、黒や紺の服なら背景は白、白の服なら背景は暗めの色にする、など顔色を良く見せるための様々なコツがあります。オンライン面接では、スーツの着こなしや細かい所作よりも、「オンライン映え」できるかどうかが第一印象を決める鍵となりそうです。
【参考記事】
“オンライン映え”追求する就活生。顔用ライトにメイクは濃く、最新パソコンに25万円 | Business Insider Japan
リクルートスーツを借りる時代へ
オーダースーツD2Cブランド「FABRIC TOKYO(ファブリックトウキョウ)」の調査によると、就職活動後にリクルートスーツを着用しなかった人は全体の約75%に登ります。約半年間の就職活動中しか着用しないのに、最低でも1着、多い人では3着以上スーツを用意することはもったいないと感じる人も多いと思います。ファストファッションブランドで破格の安さでスーツを買えるようになったとはいえ、交通費もかさむ就職活動中には痛い出費です。
株式会社C-mindが運営する「カリクル」は、そんな就活生に無料でリクルートスーツを貸し出す画期的なサービスです。LINEからレンタルの申込みを行い、近くの会場で採寸を行えば自分にぴったりなサイズのスーツを、就活が終了するまで無料で借りることができます。
業界最大手である青山商事株式会社が展開する「洋服の青山」もリクルートスーツレンタル事業を2020年からスタートしました。ここ数年で急速に拡大を進めるシェアリングエコノミーの潮流が、リクルートスーツにも影響を及ぼし始めています。
特に若者の間では、モノを買うよりも借りてシェアする方がお得と考える人が多く、リクルートスーツのレンタルは就活生にとって受け入れやすいものだと考えられます。コロナ禍でオンラインへの移行が加速しスーツを着る機会がさらに減っていく中、今後スーツのレンタルが就活の新たな常識として定着していくかもしれません。
リクルートスーツを脱いで就活
画一的なリクルートスーツに対する学生の不満の声はよく聞きますが、リクルートスーツを敬遠する傾向は少しづつ企業側にも見られるようになっています。私服面接や自分らしい格好での面接を呼びかける企業にはどういった意図があるのでしょうか。
資生堂
資生堂では2016年から私服面接を導入しています。資生堂にとって服装はセルフプロデュース力を評価する1つの指標であり、学生の伝えたい考えや自分の良さが服装と一致しているかという点が重要になってきます。中には自己PRの一環として野球のユニフォームを着て面接に臨む学生もいたそうです。
しかし、いくら個性を発揮したとはいえ、それが企業のイメージから大きく外れてしまっていては企業とビジョンマッチしているとは言えません。資生堂では「美しくあること」が企業にとって重要です。その人らしい個性的な美しさが表現されていて、なおかつTPOに合う服装ができるかというのは、一律スーツの面接では判断できません。
大切なのは、自分をどう見せたいかということとその企業が社会にどのように見られたいかということです。この2つを意識することで、面接に何を着ていくかイメージが湧きやすくなります。
パンテーン
P&Gのヘアケアブランド「パンテーン」が2018年から展開している「#HairWeGo さあ、この髪でいこう。」キャンペーンでは、髪に対しての同調圧力をなくしていくための印象的な広告を打ち出しています。
校則による厳しい髪型・髪色の規定、就活における細かい身だしなみのマナーなど、日本では見た目に関して同調を強いられることが数多くあります。就活においては、髪型や服装は自分の個性を表現するものというよりも、採用されるために自分の個性を偽る手段と感じている学生も少なくないでしょう。
「パンテーン」は、この抑圧を特に感じているのはLGBTQ+の方々であると考え、画一的な「就活ヘア」に疑問を投げかけると共にジェンダー関係なく全ての就活生が自分らしい姿で就職活動ができるような社会を目指し、キャンペーンを続けています。
【参考記事】
HairWeGo – パンテーン(Pantene)公式サイト
就活への違和感から生まれた「#HairWeGo」パンテーンの広告が心に刺さる訳 | bizSPA!フレッシュ
まとめ
前編・中編で紹介したように、不景気では学生たちはできるだけみんなと同じ無難な格好を目指しました。コロナ禍が引き起こした採用縮小は、現在のリクルートスーツを維持させることになるかもしれません。
しかし、それと同時にコロナ禍は社会情勢の根本を大きく変えるきっかけにもなりました。さらに多様性の重視や採用方式の見直しを受けて、就職活動のあり方も着実に変化を続けています。アフターコロナの時代にはきっとリクルートスーツも新たな形へ向かっていくでしょう。
本記事を通して、「なぜリクルートスーツを着ないといけないの?」そんな疑問を抱えている方が少しでも納得してリクルートスーツに袖を通すことができれば幸いです。
それでもなお「自分らしい格好で就活をしたい!」と感じた方は、世間の圧力に負けずに自分らしいスタイルで就活に挑み内定を勝ち取った人たちがリクルートスーツのあり方に変化をもたらしたように、新たな道を切り開いていってください。
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【参考文献】
「リクルートスーツの社会史」(田中里尚、青土社、2019)