2018年6月28日、クラウドファウンディングを中心にインターネット時代のワークウェアを作る、株式会社オールユアーズが、「毎日ファッション大賞」の候補にノミネートした。

毎日ファッション大賞とは、「コム・デ・ギャルソン/川久保玲」「ISSEY MIYAKE/三宅一生」「KENZO/高田賢三」「Yohji Yamamoto/山本耀司」などが名を並べる、日本のファッション業界において優れた業績を上げた人々を称える、業界の中でもっとも権威のある賞のうちの一つである。

これまでの受賞者とは異質な”ファッションは作らない”という、ある意味で反ファッション的なコンセプトで、インターネット時代に合ったものづくりを行う、オールユアーズが大賞候補にノミネートされたのだ。さらに、驚くべきことに、大賞を決める選考委員会に向けた、審査資料として1000人分の応援メッセージをクラウドファウンディングのプロジェクトとして開始した。

本記事では、伝道師として同社を引っ張る木村昌史氏に、ノミネートに対する気持ちや、1000人の共犯者を募る新たなプロジェクトの狙いについて聞いた。

プロジェクトページ:「第36回 毎日ファッション大賞」のために1000人の共犯者を作りたい!

クラウドファンディングを使う理由

木村昌史・株式会社オールユアーズ 代表取締役・・・
1982年10月29日群馬県生まれ。大学在学中から、株式会社ライトオンにて店長職や本部勤務をこなす。2015年当社設立、代表取締役就任。会社の理念である「LIFE SPEC」の伝道師として精力的に活動中。

──率直に、毎日ファッション大賞にノミネートされたお気持ちは?

木村:本当にうちでいいのかな?というのが、率直な気持ちです。最初からファッションを売らない、と決めていましたし、ファッション業界で一番影響力があるような賞にノミネートされるとは予想だにしていませんでした。

──今回毎日ファッション大賞への参考資料としてクラウドファンディングで応援コメントを募集していらっしゃいますが、あくまでクラウドファンディングを使い続ける理由を教えてください。

木村:クラウドファンデングは権威の象徴を全部ぶっ壊して、曖昧にしてしまうもので、広告費がなくても純粋にプロダクトで勝負できるんです。会社の規模に関係なく、マーケットが並列になるんです。権威と真逆に動いてくれるという、最もインターネットぽいシステムが面白いと思い、使い始めました。

実際にクラウドファンディングをいくつか実践してみて、ガチガチなファッション関係者より、メディアリテラシーの高いIT系の人や、もともとファッションが好きだったけど、最近あまり服を購入をしなくなってしまった人たちが多くいるということを知ることができました。

この背景には、トップからボトムに情報が降りていくという従来のファッションの概念が崩れ、トップとボトム間の時差が消えた結果、トップブランドが提唱するような「かっこいい」という商売は難しくなっていしまったということがあると思っています。これらを踏まえ、ファッション業界において、ボトムからみんなの欲しい服を作りたいという僕たちの考えを実行する上でクラウドファンディングが最も適したツールだったのが使い続けている理由です。

洋服が持つストレスに向き合いたい

──改めて、「ALL YOURS(オールユアーズ )」をスタートした経緯とブランドの概要を教えてください。

木村:僕たちのブランドがコンセプトにしている、インターネット時代のワークウェアというのは、IT系の人のように、週7日カジュアルウェアを着る人のためのワークウェアという意味で、座り仕事が多いのに硬くて分厚い服なんて着てられない、もうちょっと楽な方がいいなっていう人がたくさんいるはずという考えからきています。

ファッション業界の残念なところとして、全体的に「洋服好きですよね?」、「コーディネート楽しいでしょ?」ということが前提で、洋服選びが苦痛な人もいることを意識できていないこと。そういう人のために洋服を作りたいなって思ったんです。

もともと僕が一番好きなブランドはリーバイスやヘインズていう無名の人が着ていたアメリカのワークウェアブランドで、一部の人にしか分からないかっこよさより、使いやすさがあったほうがいいと思っています。平日にスーツや作業着を着ていた時代、権威的なファッションというのは土日に着るために作られた晴れ着のようなものだったと思います。それが今では週7でカジュアルウェアという人も増えて来た。週7でカジュアルウェアを着るとなると選択肢が変わりますよね。もっと楽でストレスのない、仕事の邪魔にならない方がいいという視点で選ぶと、もはや土日も楽なほうがよくて、わざわざおしゃれなものを買わなくなる人もいると思います。

また洋服は自己表現の一つで、「何を着ている」かで何が好きかが分かる。しかしSNSによって、誰でも自己表現できるようになりました。その結果「何を考え、どこで何をしているか」がより大事になり、洋服による自己表現の領域が小さくなってきています。インスタ映えという言葉があるのに、自分映えって言いませんよね。

ファッション業界が、本当は「おしゃれをすることの否定」や「動きやすくてストレスがない」という理由で発生したノームコアやアスレジャーを、かっこいいものとして捉えてしまったように、ファッション業界は洋服が持つストレスに対して向き合って来なかった。僕らはそこに向き合いたいんです。めんどくささ、だるさ、ストレスを取り除いて、着やすく楽だ、というのを提供すれば、人間の行動が変わると思っています。

「ALL YOURS」は「人」が中心

──これまでの既存のアイテムと、「ALL YOURS」のアイテムはどのような点において違うのでしょうか?

木村:多くのブランドが、「プロダクト」「ブランド」中心に考えているところに対して、「ALL YOURS」は「人」が中心ということが大きく違っていると考えています。

ブランドビジネスで見ると、シーズンテーマ、ブランドコンセプト、ルック、コーディネートというのはブランド中心で、人がそれを消費する関係性。逆に「ALL YOURS」は使う人が、気持ちよくない製品は作らない。だからルックもないしシーズンテーマもないけれど、その商品一つ一つに人が着やすいというコンセプトがあります。

また、アウトドアブランドとの違いとしては、アウトドアブランドは「よりハイスペック」なもので、「ALL YOURS」はその点を突き詰めてはいない点です。例えばこの帽子は撥水性はあるけど防水性はない。でも、コットンで出来ているから、着け心地はいい。

ちょっとした雨で少し出かけるのがめんどくさいって時に使えるんです。傘ささなくてもいいくらいなのに雨降る時が一番ストレスだったりしますよね。そういう時に傘を買わなくてもいい選択肢を提供できるんです。このように普段着の延長線上で着ることができることが、うちのアイテムの特徴かなと思います。

なぜ共犯者?

──「ALL YOURS」が巻き込む人を共犯者と総称することの理由を教えてください。

木村:すごい簡単なことで、客が消費者側じゃなく、全員がこっち側だと思っているからです。うちは基本的に「お客様」て言わない、「お客さん」て呼ぶんです。僕は社長でブランドオーナーですが、あくまでお客さんに育ててもらってるもで、僕のブランドだとはとても思えない。クラウドファンディングでやるということは、買ってもらうのではなく、支援してもらうということだと捉えています。だから「ALL YOURS」にはお客様はいないし、お客さんは消費者ではなく開発者の一人。そういうメッセージを込めて、「共犯者」という表現を使っています。消費は投票と同じで、支持してくれる人は身内だと捉えていますね。

──支援してくれる人に、より親近感を持たせる方法はありますか?

木村:親近感を持ってもらえるようにうちのスタッフに徹底させていることがいくつかあり、一つ目は文章は全部話し言葉にしてるということ。例えば文章中に「そうでしょ?」ていうレベルの話し言葉も使っちゃいます。もう一つ、弱いところを見せるということ。うちはかっこつけたら成り立たないんですよ。逆にこういうことに困ってます、めっちゃ苦しいです、と正直に伝えることが大事なんだと思います。「売り場にいて楽しくなかったら楽しくない顔しろ、その代わり感じ悪い顔じゃなくて、大丈夫?て言われるような顔にしろ」て言ってるんです。その方が人間らしいじゃないですか?透明性というか、人間として振る舞ってほしい、という意味です。「ALL YOURS」はファッションブランドじゃないから、と言ってしまえば、かっこつけなくてよくなるんですよ。

フラットさがあるからこそコミュニティを生み出すことができる

──「ALL YOURS」だからこそ生み出せるものとはどのようなものでしょうか?

木村:商品だけで考えると、他のアウトドアブランドの方が開発力もありますし、「ALL YOURS」だからってものはないです。しかし、親近感やお客さんとのフラットな関係性は僕たちだからこそ生み出せるものだと思います。店員がスカしてないし、お客さんにへりくだってもいない。お互い冗談を言える関係性で、お客さんにフラットな目線で付き合うことって勇気いることで、他ではなかなかできないことじゃないかな。お客さんのことを基本的には全員大事に扱うけれど、過剰にする必要もない。フラットさがあるからこそコミュニティを生み出すことができると思います。

──毎日ファッション大賞など権威ある賞の獲得はもともと目指していらっしゃいましたか?

木村:全く目指していませんでした。もともとファッション系じゃなく流通系の人間なので、そもそもそこに憧れがないし、それを取ったからって偉いとも思っていません。もっと言うと、大賞受賞ということはブランドの看板になるけれど、うちはそもそも、そういうものに全く頼っていないので、ノミネートされたことも全く権威だとは思わないです。逆にクローズドな環境で、少数の人間がいいものなんて決められるはずがないというのが正直な気持ちです。彼らがいいものだ、と言ったものより、友達がいいよ、て言ったもののほうが力強い。リーバイスやディキーズがファッションではなく、単にワークウェアとして服作りをしていたのと僕たちのスタンスは全く同じ。密室で決めるものってもう今っぽくないんです。だからこそ、1000人の共犯者達が「『ALL YOURS』いいよ」って言ってくれてるものを持ち込んだ時にどうなるか楽しみにしています。

応援コメントはこちらから:「第36回 毎日ファッション大賞」のために1000人の共犯者を作りたい!

時代がそうさせているんだと思います

──賞にノミネートされたことが意味することとは何でしょうか?

木村:ALL YOURSが最先端だという捉え方はしてなくて、時代が変わってきているという意味だと思います。ファッションとしてというより、消費のあり方が新しくなってきています。だからうちの特異性というより、時代がそうさせているんだと思います。

──最後に、今後の展望について教えていただけますでしょうか?

木村:24ヶ月連続のクラウドファンディングが、来年の4月で終わります。その後タイミングを見て、海外に挑戦しようと決めています。クラウドファンディングのプラットホームが全世界にあるので、海外のクラウドファンディングに挑戦しながら越境ECを狙います。当面の目標としてはWeb ストアの多言語化と各ターゲット国のカルチャーへのアジャストがあります。「ALL YOURS」のようなベーシックな商品はアメリカ人に響くんですよ。これがおしゃれ以前の普段着になり、アメリカ人のストレスフリーに対する合理性に合いやすい。

あとは国内のサービスを変えたいと思っています。スマホの支払いのようなスタイルで、月1000円、12回払いで、メンテナンスサービスを提供するというような感じです。例えば撥水性がなくなったらもう一度加工し直す、といった、商品を保障付きの分割払いにしたいんです。うちをコミュニティビィネスと捉える場合、お客さんとの接点が多くなることは僕たちにとってもメリットなので、分割払いにすればその期間中お客さんと付き合うことができるようになります。

他にも店舗で別注品をいっぱい作るというブランドコラボのようなことを考えています。日本の小さいブランドや海外でもやりたいと思っていて、ファッション系より IT系の業界と組んで何か新しいことをやって行こうと考えています。

──ありがとうございました。


READY TO FASHION MAG 編集部

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