Photo:Satoshi,T(READY TO FASHION)

連載企画「その道のプロから聞く!ファッション業界の仕事紹介」では、実際にファッション業界の第一線で活躍されている方々にインタビューを行い、READY TO FASHIONの読者にお届けしていく。第3弾は、4年制大学の中で人気の高かった*、MD編。今回は、今ファッション業界で最も勢いのある企業、株式会社マッシュスタイルラボ 取締役MD本部 本部長の須藤誠氏にインタビューを行った。大人気ブランド スナイデルのMDとして、どんな素質が求められるのかということや仕事の魅力などを伺った。

ブランドにたずさわる一人一人を理解する

──MDという仕事はどんな役割を持つ仕事なのでしょうか?

須藤誠(以下、須藤):まず会社の考え方次第でMDがいる会社もあれば、MDがいないところもあるので、今回はあくまでマッシュスタイルラボのMDとしてということでお話をさせて頂きますね。

今回取材を受けるにあたり、MDの仕事ってどんな仕事なのかなと改めて調べ直してみたのですが、商品計画とか販売計画とかいわゆる商品を販売するためのビジネスとしての計画や戦略を組むことが仕事と言われていますよね。これを私なりにわかりやすく言い換えると、“お客様のニーズをくみ取り、間違いない場所で、間違いない時期にお客様に提案し、それを売り上げに変える”のが仕事だと考えています。

私たちは展示会をベースに商品を作っているのですが、MD職の一番最初の大事な仕事は、まずは“お客様が高揚する商品開発をする “ということだと思っています。お客様が高揚する商品を開発していくためには、様々な部門と連携が取れていなければなりません。半年後の商品を作っているデザイナーに “こういったニーズがある”、“お客様はこんなものが好きな傾向にありますよ”という情報を伝え、そこから商品を作ってもらいます。その情報を共有したデザイナーたちが作ったものを “デザイナーはこんな思いで作ったんだよ”と営業チームに伝え、落とし込んでいく。そして、営業チームはそれを自分たちの知識として、販売接客に繋げていくという流れになっています。そのように、間を取り持つのがMDの役割でもありますし、そこには必ずコミュニケーションが発生していきます。そのため、コミュニケーションはすごく大事にしています。ブランドを運営していくために、みんなの意見をまとめながら推し進めていくんです。

──今、お話をお伺いしているとマネジメントをしているようなイメージで、管理職のような感覚に近いのかなとも思いました。

須藤:そうですね。そのように見られることもありますし、実際にマネジメントのような仕事もしていると思います。一つのブランドを運営するのには、企画/生産/PR/営業の4チームが必要です。 “ブランドを成功に導くためにその人たちをどう動かしていくのか”ということを考えるのはMDに取って大事な考え方だと感じています。そういった点で、マネジメントというイメージにつながるのかもしれませんね。

どのブランドにも「ブランドコンセプト」というものがあるのですが、私たちMDはそのコンセプトに従い、企画/生産/ PR/営業と、各部門間を一つのチームとして繋げていく役目があります。

会社やブランドの規模が大きくなればなるほど、各部門が遠く感じるかもしれないので、その分、部門間のコミュニケーションを円滑にさせる必要があります。MD職はさまざまな部門と連携していくので、そこの部分をスムーズにするために“ブランドにたずさわる一人一人を理解する”ということは仕事をする上でとても重要な情報になってきますね。

身につくノウハウ

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──以前、READY TO FASHIONでアンケートを取ったところ、4年制大学にはMD職が人気でした。数字に強いことなどが4年制大学の人たちに人気だった理由の一つなのかなと考えられるのですが、須藤さんご自身はどういった経緯でMD職に就かれたのですか?

須藤:もともとはOEMというもの作りの業界からこの業界に入りました。 そして、25歳の時に学生時代から憧れていたMD職を目指したいと考え、転職を決意しました。 MD職というのは“格好良くて、バリバリ仕事をしている”というイメージでしたからね。

──OEMの会社ではどんなことが身につきましたか?

須藤:OEMにいた頃は、直接工場の人と話をしていたので、ものを作ることに関する知識を得ることができました。例えば、ニットが中心の会社だったのでニットの編み方の話や糸の値段の話。そして、製品にした時にどのくらいのコストになるのかということや、貿易関係の関税がどのようにかかるのかなど多くの知識を身につけることができました。

──ではそこで培った数字や判断能力が今、役に立っているんですね?

須藤:はい。 物を売っている会社は、全て納期と値段というターゲットがあります。いつまでにどのタイミングで、いくらでということを常に考えなくてはなりません。そのため、時間の使い方を逆算するノウハウはとても身についたと思っています。

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──MD職のやりがいはどんなものだと感じていますか?

須藤:先ほどもお話しした通り、一つのブランドを運営するには企画/生産/PR/営業という部門があります。その中で、MDという立場上、みんなと小さなチームを組んでプロジェクトを進めていくので、いろいろな部門と関わることができ、個人としてのスキルは上がると思います。そしてその過程で、様々な情報を得ることができるので、常に新鮮な気持ちで仕事が出来る事がやりがいだと感じています。

それに、仕入れ予算、つまり大きなお金を扱う責任をいただいているというところもMDとしてやりがいを感じる部分だと思います。もちろんその分、プレッシャーと向き合う仕事なので、そこは辛さと紙一重かなと思っています。

女性の気持ちを掴むことは至難の技

マッシュスタイルラボ
Photo:Satoshi,T(READY TO FASHION)
マッシュスタイルラボ
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──昨年、行われたスナイデルパークプロジェクトの講演会*で近藤社長がファッション業界で働いていくのであれば、いろんなことにアンテナを張らなければならないとおっしゃっていました。MDとしてやっていく上でもそのような要素は大事ですか?

須藤:そうですね。MDとしてやっていく上で大事な要素は二つあると思っています。

まず一つ目は“数値管理”です。先ほどのやりがいのお話にもありましたが、私たちMDは仕入れ予算をもらい、それをもとに発注をかけていきます。

例えば、春の仕入れ予算はいくらにするのか、などです。だいたい売り上げの1.2〜1.4倍が仕入れ予算になってくるのですが、売り上げと仕入れ予算のバランスはとても大事です。売り上げを上げて在庫を減らすことで、会社の利益につながります。

そのバランスをとるためには、まず”今、何が売れているのか”、そして”去年、何が売れていたのか”という数値分析をしなくてはなりません。分析をしなければ、”ただの勘”になってしまいます。何となくこれが売れそうだから10億円仕入れました、とかではダメですからね(笑)。

販売スタッフのみんなが頑張って働いてくれたものが売り上げとして積み上がって、僕たちMDが仕入れ予算というものを動かせるようになるので、責任は重大です。細かく過去の分析をして、仕入れる数字に対して”だから今年はこうなるであろう”という裏付けを作らなければならない。これはとても重要なことであり、最低限やらなくてはならないことです。ただ、そこの部分に関しては、そこまで難しくないかもしれません。Excelなどを駆使したり、ある程度訓練すれば身につく事だと思います。

そこでもう一つ重要になってくるのが”感性”の部分です。”次はこういったトレンドがくるであろう”と創造できる事です。それはまさしく社長の近藤がスナイデルパークプロジェクトの講演会でお話したような内容です。今の”世の中の流れ”というものをしっかりと見極める視点や感覚が必要になってくると思います。

売れ筋を狙う数値管理ばかりでは、どこでも見かける商品に偏ってしまいますし、逆に感性ばかりではおそらく世の中の人たちが理解できない商品になりますからね。

──それは長年MDをやってきたからこそのバランス感覚なのでしょうか?

須藤:経験ももちろんあります。ただやはり、感性の部分の話では、僕は男性なので3か月後の女性の気持ちを掴むことは至難の技です(笑)。そのため、まずは会社の女性スタッフと話し、店舗スタッフからお客様のニーズを聞き、少しずつ情報を蓄積する事がとても重要だと考えています。

“当たり前”という概念を捨てフラットに

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──女性向けのブランドで男性がMDをすることにどう向き合っているのですか?

須藤:女性のMDと仕事内容は変わりません。ただ、決定的に違うことは、僕自身は服を着ることができないということです。そのため、とにかく周りの女性スタッフになんでも聞くようにしています。自分一人の感性で決めてしまうのではなく、多くの女性の声を聞く。逆に男性がゆえに、客観的に見れるという事はメリットだと思っています。

──海外事業の展開*が進んできていると思いますが、これからどんな人にチャレンジしてもらいたいですか?

須藤:海外事業の人材は、基本的に現地での採用となっています。ただ、海外で活躍したいと考える人にはそのようなチャンスがある会社だと思います。 まず海外事業は、日本をベースに考えると人も文化もまったく違う環境なので、そう考えると0からのスタートだと最初は感じました。しかし、0を1にできた時には何かしらの結果が生まれます。日本にある “当たり前”という概念を捨て、フラットな状態で捉え、そこをプラスに考えることが出来れば新しいことにチャレンジしやすい環境であると言えます。なので、積極的に取り組める方は大歓迎です。

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──今回のお話を通して、役員の方も販売の方も分け隔てなくお話されている印象があり、とても風通しの良い会社だなと感じました。

須藤:そうですね。仲が良いと思います。社長自身がとてもフランクに社員と接して下さる方なので。一人一人とコミュニケーションをとる事をとても大事に思って下さっています。

失敗に関しても誰かのせいにするような雰囲気はないですし、そのような環境なので、常に前向きでいることができるなとは感じます。ただ、各々はきちんと責任感を持ち、仕事をしています。”良いものを作って、お客様に届けよう”という信念が一緒に働いていて伝わってきますし、みんなプロ意識が高いと思いますよ。

──どんなかたと一緒に働きたいと思いますか?また、若者に期待することなどがあれば教えてください。

須藤:まずは“洋服が好き”という点ですね。そして洋服だけではなく、ファッションを通してお客様を幸せにしたい、と心から思う方を仲間として一緒に仕事をしたいと思います。

経験や知識は歳を重ねると、ある程度は身につきます。これから社会人になっていく方たちには、今この時にしか思いつかないような感性をぜひ大切にして欲しいと思います。

editor’s view

MD職はなかなか新卒では募集がされていない職種だ。それは今回須藤氏が語ってくれたように、さまざまな部門と連携し、かつ広い視野を持って会社の大事な資金を動かすという重要な役割を担うためだからであろう。MD職を目指すのであれば、より多くの経験をし、いろんな人と出会い、さまざまなことを吸収して、自分を磨くということが近道の一つになるかもしれない。他にもどんな道があるか考えてみてはどうだろうか。


Text:Reiko.SREADY TO FASHION MAG編集部)

READY TO FASHION MAG 編集部

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