服飾学生団体「Keio Fashion Creator」は、2023年8月27日(日)に交流イベント、【Exhibition vol.2】「服と創作」をSHIBUYA109にて開催しました。

このイベントは、団体と団体外の学生や企業といったさまざまな人との対話が生まれる場所を創りたいという思いから企画されたもの。

この記事では同イベント内のOGOB企画として行われた、Keio Fashion Creator出身の「HOUGA(ホウガ)」デザイナー・石田萌氏をゲストに迎えた学生とのトークセッションの模様をお届けします。

石田萌氏のKeio Fashion Creator時代の話だけでなく、企業デザイナー時代から自分のブランドを立ち上げるに至るまで、さまざまな観点で知ることができる内容です。制作の原点やHOUGAの唯一無二の世界観の魅力とは。

学生団体のイベントの様子は下記の記事をご覧ください。
>>「学生団体 Keio Fashion Creatorによる交流イベント「服と創作」をレポート」

プロフィール:石田 萌(いしだ・もえ)1988年生まれ。慶應義塾大学文学部美学美術史専攻、エスモード・ジャポン東京校卒業。第86回装苑賞佳作1位、第11回YKKファスニングアワード優秀賞受賞。株式会社BIGIにてレディースの企画を経験し、出産を機に退職。2019年春夏シーズンから『HOUGA』をスタート。(出典:HOUGA

ジャンル問わず幅広い人たちと出会えたKeio Fashion Creator時代

ー石田さんがKeio Fashion Creatorに在籍されていた当時は、どういう団体でしたか?

エスモードに通いながら1年に1回、ファッションショーを開催している、計10人くらいの小規模な団体でしたね。

部員に関して言うと、仲良しグループというよりもファッションショーをやるためだけに集まった人たちという印象です。私自身、友達をたくさん作るタイプではなかったからそう思ったのかもしれません(笑)。

でも、服好きのクリエイティブな人たちばかりじゃなくて、医学部や法学部に通ってる人とか、いろんなことをやっている人がいたので、ジャンル問わず幅広い人たちと出会えたのは幸運でした。

ーKeio Fashion Creatorでの活動で印象に残っていることはありますか?

初めてホールで開催したファッションショーですね。服の作り方も分からず、経験者もいなかったんですけど、勢いだけはあったので、ファスナーをぐしゃぐしゃにしたりと、常識の範囲を超えたショーを作ったんです。

分からないながらも課題を見つけては、その都度自分たちで勉強していくという繰り返しで、印象に残っているファッションショーでした。

ーKeio Fashion Creatorの活動以外では、学生時代、どんな風に過ごされていたんですか?

もともとファッションデザイナーになりたいという思いがあって、とにかく作ることがしたかった。なので、居酒屋やアパレルの販売のアルバイトをしながら、大学と並行してエスモードに通って、服作りに専念していました。

でも、当時はどういうデザイナーになりたいのかを自分で具体的に分かっていなかったので、いろいろなことを試しながら、好きなことや得意なことを探している段階でした。

ーデザイナーになりたいと思うようになったきっかけは何だったんですか?

小学生の時から絵を描いたり、ものを作ったりするのが好きで、小学校高学年くらいになると、ティーン向けのファッション雑誌に出会ってファッションに興味を持ち始めました。

子どもの時から人見知りで静かな性格だったんですけど、可愛い服や派手な服を着ると気分が上がって、「自信を持って人と接することができるんだ」って服の力に助けられたんです。そうやってエンパワーメントできる服をデザインする人になりたいって思ったのがきっかけです。

ー実際に今、HOUGAのデザイナーとして仕事をするうえで、Keio Fashion Creatorでの経験と重なることはありますか?

Keio Fashion Creatorの場合、みんなで決めたものに沿って作っていくので、企業デザイナーのような存在が必要ですよね。自分のブランドでデザイナーをする場合は、自分でコンセプトを考えてデザインできるので、両者はまた違ったベクトルなのかもしれないです。

デザインから届け方まで自分で責任を持ちたい

ーすぐにブランドを立ち上げず、企業デザイナーとして働こうと思った理由は何ですか?

服作りの専門的な知識は、エスモードで勉強していたんですけど、具体的に仕事としてのデザイナーのイメージが掴めなかったんです。なので、まずは就職して、勉強してから今後のことを決めようと思っていました。

とはいえ、自分のブランドを作るっていうことは決めていたので、会社の人にも「将来、自分のブランドをやりたいです」ってずっと言っていて。

上司には「うちの会社で作ったら?」と言ってもらえていたので、独立せずに企業でブランドを立ち上げることも念頭にありました。

ーアパレル企業で働いていて良かったなと感じることはありますか?

入社して半年は研修制度として、販売をしたり倉庫に行って仕分けをしたりと、いろんな部署を1週間ごとに回っていたんです。

企業で働く前は、自分の好きな服を作ることに集中していたので、実際に服を作る以外にどういう人がいて、どういった過程を踏んで服が届いてるのかを知る機会になったのはすごく良い経験でした。

ー独立を決めたきっかけは何だったんですか?

企業デザイナーで仕事をしているうちに、もう一度自分のクリエイションと向き合いたいと思って、「ここのがっこう」に通うようになったんです。そこで自分のやりたいことを見直した時に、企業でデザインするよりも自分のブランドでデザインする方がいいなって思ったのがきっかけです。

あとは、自分がデザインしたものに自分で責任を取りたいという思いもありました。企業デザイナーとしてデザインするのは、一人でデザインするというよりも、みんなで作り上げていくイメージなんです。制作から届け方まで自分でデザインしたいし、そこまで責任を持ちたいなっていう気持ちにシフトしていきました。もちろん独立後もチームになりますが、歴史も何もないところからちょっとしたニュアンスまでフィットする感覚をみんなで選択することができることは魅力でした。

ー実際に独立されてどうでしたか?

使える資源やお金も限られていたので、試行錯誤の繰り返しでしたね。でも、表現したいことがあってブランドを始めたので、辛さはあまり感じませんでした。

独立して最初は全てを自分で決められることが楽しいっていう気持ちの方が強かったのかもしれないです。

ー自分のブランドでデザインをするうえで気をつけていることは何ですか?

当たり前のことですが、自分が作ったものは自信を持って出す、ということです。独立を当時のチーフに伝えた時に、「自信が持てないものを出すのは失礼なことだから、自分が作ったものは自信を持ちなさい」と言われて送り出してもらえたので、自信を持って取り組んでいました。

もう一つは、決めることがデザイナーの仕事だということ。例えば、パタンナーに「これどっちが良いですか?」って聞かれたら、デザイナーがちゃんと答えられるようにすることですね。デザイナーが何に基づいてデザインしたのか分からなかったら、誰にも正解が分からないので。

コンセプトや、何のために自分が今この服を作るのかが固まってくると、自然と迷うことなく選択肢を選べるようになると思うんです。

エイジレス、ジェンダーレス、ストレスレスな服作りの原点

ー石田さんにとって服はどんな存在ですか?

服を通して人とつながれる、コミュニケーションとしての存在ですね。服を作り続けているからこそ出会えた人もたくさんいるので。

ーそんな石田さんがつくる「HOUGA」のコンセプトは?

「”Unbirthday Party Dress”364日、自分が萌芽する。―The story of the country, vague but certainly exists somewhere.」というコンセプトです。誕生日じゃない日に着るパーティードレスというイメージで、普段から着れるドレスを作りたいなって思ってできたブランドです。

  • 出典:HOUGA 2023年秋冬コレクション(FASHIONSNAP)

ーブランドには、「HOUGAの国」というテーマがありますよね。

はい。いつもコレクションのテーマにしています。「HOUGAの国」は、それぞれの心の中にある国で、その国は自分が自分らしくいられる世界。「HOUGAの国」でありのままでいられる人たちが、こちらの世界にいても少しでも生きやすいように、自分の世界にいる時の感覚で着られるドレスをコンセプトに作ってます。

なので「HOUGAの国」では、性別や年齢に関わらず、自分に合うものを素直に選ぶイメージを大切にしているんです。男の人だから男らしく、女の人だから女の人らしく、お母さんらしくとか、無意識に決めつけてしまっている部分もあると思うんです。そうではなくて、自分の心がときめいたり、気になったものを着ようという想いを込めています。

ーその世界観を実現するために工夫していることはありますか?

ルックを作るうえで、いろんなモデルさんに着てもらっているのはもちろん、服を着た時にストレスを感じてほしくないので、全てフリーサイズで作っています。

もちろんタイトで綺麗なドレスも良いのですが、サイズに関わらず着られて、フィットするものを作りたいなと思っていて。被るだけで着られる、洗ってもシワにならないといった、とにかくストレスフリーな作りを心がけています。

あとは、決めつけたり、決めつけられたりすることも違和感で…。こう着てくださいっていうよりも、着たいと思う着方でコーディネートしてもらうのが嬉しいので、いろんな着方ができる服が多いです。

1日のうちで情緒や気分も変わるので、例え同じ一着でも、朝はこう着ていくけど昼を過ぎたらこう着るとか。それくらい自由な服でいいんじゃないかなって。

ー自由で縛りのない服を作ろうと思ったのはなぜですか?

偶然、ベビー服のブランドで働いていた期間があって。それがHOUGAの子どもも大人も着れるエイジレスな服を作ろうと思った原点になっているんじゃないかな。

ー「HOUGA」のアイテムはシュシュやフリルが印象的ですが、そういったモチーフが好きだったんですか?

フリルが好きな自覚はなかったですね。でも、作ったものを人に見せた時に「なんかいつもフリフリってしてるよね」って言われたことがあって、そこから意識して作るようになりました。

思い返せば、学生の頃から立体で着せてみて組み合わせて考えたり、ディテールを作ったりするのが好きでしたね。

イベント会場にて展示されていた「HOUGA」2023 秋冬コレクションのワンピース(RTF編集部撮影)

どんなデザイナーになるかのほうが圧倒的に難しい

ー今後、HOUGAではどんなことをしていきたいですか?

変わらず「HOUGAの国」の物語を作って、コレクションを展開していきたいです。自分の中で「HOUGAの国」が広すぎて、年2回のコレクションのペースだと表現したいことが追いつかないので、作り続けたいです。あとはもっとブランドとして大きくなれるように頑張りたいなと思っています。

ー最後に、部員に向けてメッセージをお願いします。

私が何か言える立場ではないのですが、将来、服を作りたいって思っている人も、ファッションに関係のないことでも頑張ってほしいです。デザイナーは誰にでもなれるけど、どんなデザイナーになるかのほうが圧倒的に難しいんです。挑戦してみてからじゃないと分からないことももちろんたくさんあるし、他にやってることが強みになったりするので、たくさんいろんな経験をしてほしいですね。

サークルとしてみんなで一つのものを作るのってすごく難しいことをしてると思うんですけど、これからもみなさんの活動を陰ながら応援しています。

Keio Fashion Creatorについて

Keio Fashion Creatorでは、部員を募集中です。団体の詳細についてはこちらをご覧ください。

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>>READY TO FASHIONとは?

三谷温紀(READY TO FASHION MAG 編集部)

2000年、埼玉県生まれ。青山学院大学文学部卒業後、インターンとして活動していた「READY TO FASHION」に新卒で入社。記事執筆やインタビュー取材などを行っている。ジェンダーやメンタルヘルスなどの社会問題にも興味関心があり、他媒体でも執筆活動中。韓国カルチャーをこよなく愛している。