ファッションをテーマに活動している若者のリアルや、同世代へのメッセージを届ける連載企画「若者VOICE」。第14回目となる今回は自身のブランド「corekiyo」をワンシーズン限りで立ち上げ、今年度には一般大学を卒業する菊田潤さんに、自身のクリエイションやcorekiyoについて、そして今後の展開ついて聞いた。
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菊田潤
今年度一般大学を卒業し、来年春にセントラル・セント・マーチンズへ進学予定。自身のブランド「corekiyo」の17ssでストリートやミリタリーの要素を持つコレクションを発表し、業界関係者から多くの注目を集める。
Instagram:@junkikuta94
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ーはじめに菊田さん自身のことについて伺います。インスタグラムを拝見していると海外のコアなブランドなどを着用しており、ファッションに造詣が深い方だと感じました。はじめにファッションに興味を持ち始めた経緯は何ですか。
菊田:小・中学生の時は北京や上海で過ごしていて、日本の実家から送られてくる服を着ていました。父親の趣味もあって当時はポールスミスばかり。その後高校の時に東京へ帰り、初めて原宿のMESENという古着屋で服を買ってからは、今もずっと古着をベースに洋服を着ています。今振り返ると様々な系統の服を着ていましたね。
ー現在の大学での専攻は?
菊田:専攻は特になく、リベラルアーツという全体を学ぶことができる学部にいます。本当は高校卒業後すぐに美大に進みたかったのでが、両親の反対もあり今の学校を選びました。今の大学を出てからならデザインを学んでもいいとのことで、今後はセントラル・セント・マーチンズ(以下セントマ)に進学します。
ーファッション系の美大は多くありますが、今後の進路としてセントマを選んだ理由はなんだったのでしょうか。
菊田:多数のデザイナーを輩出しているファッションの名門校ということもありますが、他の美大よりもデザインに重きを置いているからです。セントマを卒業したら、一度大手のデザインチームに入りたいと思っています。
ーセントマがあるロンドンには、もともとよく行かれているみたいですね。どういう部分に魅力を感じますか。
菊田:ロンドンってよくアメリカと対比されると思うのですが、洗練されすぎたスタイルの多いアメリカよりも、良い具合に土臭さや青臭さの残るロンドンの雰囲気の方が面白みを感じます。「こういうことやっちゃおうよ」という精神が認められる風潮もあり、ロンドンにはクリエーションの伸びしろがあります。今日着ているkiko kostadinovや、最近注目されているCOTTWEILERなど新しいブランドも出て来ていますよね。サヴィル・ロウを代表するテーラードが根付いている環境など、ロンドンには全体的に魅力を感じます。
ー現在の大学ではデザインとは別のことを学んでいるようですが、実際に服作りを始めたのはいつからですか。また、それが自身のブランドcorekiyoに繋がった経緯を教えてください。
菊田:最初はデザイナーではなくスタイリストになりたいと考えていました。今の学校を卒業したらしっかりとファッションを学びたいと思いロンドンのセントマを目指そうと思いました。進学に際しポートフォリオを作る必要があったのでcorekiyoで本格的に服作りを始め、4月には展示会を行いました。ブランドを設立するまではスタイリストを目指すための学科に入ろうと思っていたのですが、作って行くうちに「これ結構楽しいな」と思って。デザイナーの勉強のできるメンズデザイン科を目指すことに決めました。
ーブランド名の由来はなんでしょう。
菊田:飼っている犬を高橋是清からコレキヨと名付けていて。犬がすごく好きなんですよね。あと、「今日これ着よう」という意味もあります。生活のコアという意味を含め、korekiyoではなくcorekiyoという表記にしました。
ーブランド名の由来に対してスタイルのかっこよさ、ギャップが魅力的ですね。
菊田:今世の中のどのブランドもかっこいい名前のものってすごく多いんですよ。でも肝心の中身がめちゃくちゃダサかったりして。当初はもっとおしゃれでかっこいい名前にしようと思っていたのですが、そこは頑張るところでもないと思って。中身がカッコよければ逆にユニークな名前の方が覚えてもらえるかなと思いました。あとは、服にもタグをつけていないんですよ。結局洋服が選ばれる理由ってデザインなのかブランドネームなのかと考えた時に後者が理由の場合が圧倒的に多い。corekiyoは単体のブランドの服って思って欲しくなくて、マルジェラのタグが取りやすくなっているように、独特のシルエット、クオリティやルックの見せ方など、洋服のアドバンテージのところで評価して欲しいです。
corekiyo 17SS
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ーブランドネームではなく服の本質を見て欲しいという考えは、やっぱり菊田さん自身が古着にずっと触れてきていたこととは関係がありそうですね。
菊田:ありますね。結局デザインって長い歴史があるので、服にしたって2000年も経って色々なセレクトショップや古着屋が、これ以上新しいものとか全く違う展開を見せる事って不可能だと思うんです。だったらこれからは提案の時代なのかなと。昔みたいに、ブログや雑誌に1枚写真を乗せれば服がお客さんが買いに来る時代はもう終わって、これからは1枚の写真の中で見せ方とかコンセプトとか説明してから洋服を見せても面白いと思います。
ー実際のルックを見ると、モデルやロケーションの雰囲気に独特な世界観を感じました。
菊田:今回のルックでは、プロを一人も使っていません。カメラマンやヘアメイクはアシスタントの方で、モデルは学校の友達。専門としてる人たちではないので、ガチガチのルックにはなっていないです。そこで勝負するわけではないから、一日の流れを追うようなリアルさを出したかったんですよ。スタジオでタバコを吸わせたり、corekiyoの服を着てないところを撮ったり、地面に新作の服を並べて上に寝ていたり。通常のブランドのルックではやらないけど生活の中では割とあり得る瞬間を連想して撮りました。
服に関しては、後付けでも一つ一つに理由があります。そうじゃないと服を作り出す理由がないと思っているから、そこが今回のコンセプトにつながるのかなと感じます。生地やジップもなんでこれを使うのかと説明できるようにこだわりました。そういう積み重ねが、わざわざ展示会に来てまで買ってもらえる理由になったと感じます。
ーcorekiyoが今回のようなミリタリーやストリートの要素があるスタイルに行き着いたのはなぜですか。
菊田:ストリートやワーク、ミリタリー、レディースでも、きっと作ろうと思えばなんでも作れるし、スタイリングもできると思うんです。単純に自分が何かをするのはビジネスだし利益も出さなければいけない。では今作って一番売れるものはなんだっていう単純な想いから、必要な要素を踏まえて作るスタイルを決めます。その中でルックの見せ方やデザインで自分のオリジナリティーを出そうと思っています。売れるかどうかというのは優先する要素です。利益の追求については敢えて言わない雰囲気がありますが、僕は言います。アーティストは世の中が認めて初めて成立するものだから。自己満はあり得ない。利益を出して次のコレクションに繋げられるかが重要だと考えています。
ーcorekiyoの服を見て何を感じて欲しいですか。
菊田:川久保玲でもソロイストの宮下貴裕でも、アーティストと呼ばれるデザイナーたちが作品にコンセプトを落とし込んでも、そのブランドのバックボーンまでを読み取る人って少ないと思います。
新作を発表されたらほとんどの人は、どのくらいの価格でどこの店が取り扱うのかなとかで完結しちゃいますよね。僕は服も音楽も映画も、自分や社会を表現する手段として作品を発表する人をアーティストと呼ぶと考えています。
なんでその服を作っているのかという意味合いを知った上で服を着ると何十倍もカッコよく見えたり、着たいと思えるポイントがたくさんあるのでそれを感じてもらえたらいいですね。
ー今年の4月に展示会を行われたとのことですが、PRの控えめさに対し多くの方々が注目していたのが印象的でした。実際に来られたのはどのような方々でしたか。
菊田:友達はもちろん、ディレクターさんやPRの方、編集部の方やスタイリストのアシスタントさんもいました。女性も多かったし、武蔵美の学生とかも。来る人の幅は結構広かったですね。おっしゃる通りプロモーションはそこまでしていなくて、「Fashionsnap.com」さんが取り上げてくれたので、その記事を見て来てくれる人も多かったです。
ー展示会を終えた今、自身や周りに変化はありますか?
菊田:corekiyoはポートフォリオの目的とは別に、進学の際の親への説得の意味もありました。セントマは学費もかかりますしね。スタイリングもディレクションもデザインも全部自分でやってみて、トータルでどれくらい評価されるのかを試したかったのもあります。受注の数や利益を見て、親を説得できる評価は受けたかなと感じました。
ー最後に、あと一歩を踏み出したいと思っているファッションが好きな若者にメッセージをお願いします。
菊田:僕自身「どうしたらいいかな」という類の相談はよく受けます。でも、やりたいことをしている人や頑張っている人はすでに動いているし、死ぬほどいる。そこでくすぶったり悩んだりしている人からアドバイスを求められても、頑張っている人にしてみたらチープな質問だと思います。メディアも雑誌も広告も、関係ないところで自分でいいものを吸収して自分の中に落とし込んでクリエイションをしていく。とにかく、すでに動いてる人は動いているということを知っておくべきだと思います。
ーありがとうございました。
Text : Naoko Inoue
Photo : Yoshiro Ishikawa