ファッションをテーマに活動している若者のリアルや、業界に対する声をありのままに届ける連載企画「若者VOICE」。本企画vol.7は、24歳という年齢で海外ブランドの日本支社にて代表取締役を務める、松岡那苗(以下略:松岡)さんに、これまでのキャリアや、若いうちにどんなことを考えて行動していたのかについて聞いた。
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profile:松岡 那苗(まつおか ななえ)
2015年に早稲田大学卒業後、リクルートにて教育事業に従事、グローバル事業開発グループに所属し東南アジアで勤務。その後、欧州系大手ファッションブランドのデジタルチームに所属、主にEコマース事業に従事。現在 LA-マレーシア発のストリートウェア ブランド”NERD UNIT JAPAN”を筆頭に、その他アジア系ファッションブランドの代表取締役を務める。
—現在24歳という年齢で、アジア系ファッションブランドの代表取締役を務める松岡さんですが、学生時代はどんなことをして過ごしていましたか?
松岡:高校まで名古屋に住んでいて、大学から東京に上京しました。学生時代はニューヨークにて、専属エディターのアシスタント業務を行い、ELLE magazineの取材など、海外で活動をしていました。そんな中、このファッションやアートのような右脳の世界で活躍する上では、金融や経営などの左脳力が重要だと感じ、金融事業の中でも商品取引等も行うようになりました。
この段階ではまだ、ファッション業界でキャリアを築くという考えはもっておらず、多様なスキルセットをつけることを重点において活動していました。
ーファッションを軸に、金融/経営などに関わっていたのですね。その結果、リクルートに新卒で就職したかと思うのですが、どうしてでしょうか?
松岡:理由は大きく2つあります。1つ目は、入社1年目であっても、自分の意思があれば何でも任せてくれる環境と、2つ目は、リクルートで人事リーダーをされていた方がいて、その人と仕事をしてみたいと思ったことです。元々外資系証券会社に入社予定だったのですが、ファッションという軸で自己を確立する上で、私はマーケティングと英語という軸を設定していたので、リクルートしかないと最後は直感で決めて入社した形になります。
ー松岡さんに取ってリクルートが1社目の会社となったかと思うのですが。ここではどんな経験をされたのですか?
松岡:リクルートは1年目の若手にも機会を与えてくれる会社で、私も幸運な事に入社してすぐに海外事業に携わることができました。東南アジアで毎日お腹を壊しながら仕事をしていたのが懐かしいです。リクルートはIT系・人材系のイメージが強く、実際そのような業界で独立されたり転職される方が多かったのですが、自分はこの頃から、ファッション業界で活躍をしたいという思いが少しずつ強くなってきました。その頃部長に「決めの問題だよ」と言われた言葉がきっかけで、「ファッション業界で成功するぞ!」と決意しました。どんな業界であっても、自分の夢や思いをぶつけることができる素晴らしい土台のある環境だったと思います。
(カントリーマネージャーを務めるバリ島のブランドでの写真)
ー転職先は、欧州系ハイファッションブランドとなりましたが、ここを選んだのにはどんな理由があったのですか?
松岡:学生の頃、父が経営するブランドの手伝いをしていたのですが、「ネットでハイブランドの商品を売る」という点で、父と何度も意見が食い違った経験が、ハイブランドを選んだ理由でした。
ネットで商品を購入する事が当たり前な時代に生まれた私に対し、長年ファッション業界で「ものづくり」の現場を見ている父は、ネットで売るということに対して保守的な考え方を持っていました。「ネットでは、服の本質的は伝わらない。」「ITの波がファッション業界に押し寄せてくると、ろくなことにならない」というのが父の口癖。ドットコムバブルなども経験している世代だったので、そう思うのも正しいと思いますが。
ー世代による考え方を超えて、成功してやるという気持ちが伝わってきます。具体的には、これをするために何が必要と思っていましたか?
松岡:ネットでの販売が良い・悪いではなく、今の時代のブランドに必要なことは、ブランドバリューを維持する事と、同時に売り上げを求めてネットで展開する両軸だと考えていました。そこで、外資系のハイブランド且つ収益性の高い会社において、デジタルブランディングとセレクティブマーケティングを学びたいと思い入社しました。試行錯誤の毎日でしたが、チームは非常に素晴らしく優秀な方ばかりで多くを勉強させていただきました。
※セレクティブマーケティングとは?
生産に限界がある商品をいかに売るかという手法。その1つが、「ブランドの付加価値」、2つ目が「セレクティブ・ディストリビューション」。
(現在、松岡さんが日本支社代表を務めるブランド『NERD UNIT』)
ー海外での経験と、ハイブランドでの経験を経て、今回、新しく海外の気鋭ブランドの日本支社代表と大きな挑戦になるかと思うのですが、この決断を下した理由を教えて下さい。
松岡:外資ブランドにいた頃から、アジア各国の新鋭ブランドと交流する機会がありました。その頃、父のブランドをサポートしたいという思いがだんだんと強くなってきたと同時に、既存ブランドにも限界があると感じるようになり、海外のブランドの日本進出を担い、海外と日本のネットワークをより濃したいと考えたことが大きなきっかけです。
その後、日々、新鋭ブランドを調査し、70ブランド以上に日本進出に興味がないか聞いて回りました。2-3ブランドから返事があればと思っていたところ、8割ほどのブランドから返事があり、どのブランドも日本進出に興味があるというのです。その後は日本で打ち合わせをしたり、電話会議など続け、3ブランドの日本進出を担当することに至りました。
ーすごい行動力ですね。簡単に見えるようで、実際に行動までする方が少ない分野だったのかもしれませんね。実際に挑戦してみて気づいたことなどあれば教えて下さい。
松岡:アジア(本国)で展開していたやり方を、どのようにローカライズするかがいかに難しく、そして重要なのかを痛感しました。ブランディングを一歩でも踏み違えしまうと、短期的には成功するかもしれないですが、長期的にみたら生き残るブランドになれません。“Slowly but steady ( ゆっくりと、でも着実に)”という言葉がある通り、ブランドを成功させていく上ではいかに長期的な視野でマーケティングやPRができるかが鍵になります。
ー現在、具体的にはどんなことをしていますか?
松岡:ローカライズしすぎてしまったら、本国のブランドイメージとは異なるものになってしまいます。そのため”ブランド哲学”と”売上”を両方考えながら本国と調整し、来月はこんなマーケティング施策を行おう、というようにしています。また、ブランドのインフルエンスをしてもらう各著名な方と直接お話しながら、その層が何を求めているかを聞くことや、InstagrammerやYoutuberなどと一緒に相談しながら施策を進めています。
ーありがとうございます。さて、この連載ではいつも質問していることなのですが、最近のファッションを松岡さんの立場からどのように見ていますか?
松岡:※コモディティファッションが台頭してきた約10年前に比べ、ファッションをツールにして自己表現をする時代になってきたのではないかなと思います。ヨウジヤマモトさんのことばで「ファッションは本来、いかに個性的であるか、自分自身であるかという、いわば精神活動に利用してもらうもの」というのがあるのですが、私もその通りだと思っています。ファッションに興味のない人が、早く安く買えるアイテムを選ぶのも、ある種の精神活動ですし、全身を黒で揃えるのもしかりと考えます。
そう捉えると、自己表現やいかに生きるかが重要になっている現代では、今後ファッション業界はトレンド性・芸術性という観点でみると右肩あがりになるのではないかなと思います。そこに売り上げがついてきて、ファッション業界へ入りたいと思う人が一人でも増えてくれたらなと感じるばかりです。
※コモディティファッションとは?
一般化、大衆化したファッション。競合する商品同士の差別化特性(機能、品質、ブランド力など)が失われ、価格や買いやすさだけを理由に選択が行われること。機能や品質面で大差のない製品が多く流通し、消費者にとって「どの会社のものを買っても同じ」状態になること。
ー今の学生や、同世代の若者に伝えたいことがあれば教えて下さい。
松岡:突出した武器を一つでも持つことが大切だと思います。それは、営業力・交渉力などソフト面でも、服のパターンが引けることやIllustratorが使えるなどハード面でも、何でもいいのです。みんながいろいろな情報を平等に吸収できる時代だからこそ、何か一つに突出することで、人との差別化を図る必要があるのではないでしょうか。それは目に見える差別化というよりも、自分自身の自信という点で大切だと思います。結局は、どれだけ行動して、どれだけ失敗できるか。そして、その行動に対して自分自身に自信を持てるかどうかに尽きると私は思っています。
もう一つ重要と思うのは、海外に挑戦することだと思います。たとえばインドネシアなどは政府が「アジア第2のファッション大国にする」と掲げており、助成金を出すほどの勢いになっています。台湾・インドネシア・タイなどではモード系のファッションブランドも続々台頭しており、ファッションショーなどで優秀な成績を収めていたりします。ファッションは今アジアが非常に熱いマーケットだと思いますし、それは自分で足を踏み込んで初めて体感できることなのだろうと。日本の若い世代がもっと活気をもって、これらのアジア諸国と協働することが、今後の私たちに必要なことではないかと思っています。
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