2017年1月30日(月)より、文化ファッション大学院大学(以下、BFGU)にて、「文化ファッション大学院大学ファッションウィーク(以下、BFGU FW)」がスタートした。本レポートでは1月31日(火)に行われたシンポジウムの内容をお届けする。登壇者はミレニアム世代と呼ばれ、ここ数年、実力をつけ、今後のファッション業界を担う5名のデザイナー。

BFGU FWとは:
文化ファッション大学院大学(BFGU)が開催する、ファッションウィークの幕開け!シンポジウムやファッションショーなどが目白押し
ショーの様子はこちら:
【全デザイナー作品掲載】将来有望の学生によるファッションショーが開催!〜「第9回BFGU FW 2017」2年次修了コレクション〜

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シンポジウム開催概要:
今回のシンポジウムでは、現在勢いのある以下の5ブランドのデザイナーが登壇し、彼らがデビューをしてから取り組んできたことやブランドを立ち上げるまでの経歴、また現在考えていることなどを聴くことが出来た。実際に独立するとなると何から始めたら良いのかという悩みや、誰もが気になるクリエーションとビジネスのバランスなど、それぞれがどう向き合ってきたのか。今まさに、市場に出て闘っている彼らはいったい何を話してくれたのか。

パネリスト:
今崎契助(PLASTICTOKYOデザイナー)
1983年京都生まれ。文化ファッション大学院大学修了後、アパレル会社勤務。2013年PLASTICTOKYOを始動。第10回DHLデザイナーアワード受賞。第34回、毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞受賞。

小高真理(malamuteデザイナー)
1987年埼玉県生まれ。2009年文化女子大学(現:文化学園大学)卒業、2011年文化ファッション大学院大学修了後、某コレクションブランドのニットアシスタントを経て、ニットOEMへ入社。2012-13A/W CollectionよりMIKIO SAKABE、Jenny Faxのニットを担当。2014-15A/W Collectionよりmalamuteを立ち上げる。

茅野誉之(CINOHデザイナー)
2003年3月文化服装学院ファッション工科専門課程アパレルデザイン科卒業。2004年3月文化ファッションビジネススクール修了。2007年MOULD設立。2008年2008-09A/Wより前身となるブランドを始動。2014S/Sコレクションよりブランド名を“CINOH”(チノ)に変更。2014年10月株式会社モールド設立。2017年resort collectionよりNYのfashionhaus(showroom)、上海K-point(showroom)と契約し海外展開を本格的に開始。

イン チソン(IHNNデザイナー)
文化ファッション大学院大学を修了後、2014年のブランドを設立。繊細さと大胆さを併せ持った新しい感性を創造し、感度の高い女性へ向けたスタイルを提案する。カラーと実践的でユニークな素材の組み合わせ、上質で現代的なコレクションを発表している。

佐藤順哉(saatデザイナー)
文化服装学院卒業後、コレクションブランド、セレクトショップ等でパターン、企画経験を経たメンバーで2015A/WよりDESIGN TEAMとして活動開始。同年ブランド「saat」を設立。

モデレーター
櫛下町伸一(くしげまちしんいち)
文化ファッション大学院大学 ファッションクリエイション専攻長 教授

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【今、注目を集めるデザイナー陣】

櫛下町伸一(以下、櫛下町):今崎さんは毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞を受賞されましたね。受賞前後で変わったことはありましたか?

今崎契助(以下、今崎):去年の11月に賞を頂いたので、まだ実感はないですが、もうすぐ展示会があるので、そこで実感するのではないかと思います。

櫛下町:企業に勤めていた頃はレディースを担当されていましたよね。なぜメンズブランドにされたのですか?

今崎:学生の頃は、ファッションビジネスなど関係なく、無責任にレディースの服を作ったりしていました。でもいざ独立デザイナーとしてやっていこうと考えた時、当時は異性の服をデザインすることに対しての自信がまだなかったことが理由の一つにあります。そして自分にとって重要だったことは、表現をする上で一番良い方法は、“自分が着たい”“自分が欲しい”と思えるものをデザインすることなのではないかと思い、メンズブランドにしました。

櫛下町:メンズではディティールが凝っている服が多いと思います。また、いわゆる“本物志向”でないと、バイヤーの方々もなかなか興味を持ってくれないというイメージがありますが、どうでしょうか?

今崎:そうですね。やはりメンズは、これまでの歴史の積み重ねと、現在の服の成り立ちを理解しないといけないと思っています、この過程を経たのちに、その先の未来の服を作ることになります。そのため、バイヤーの方々にもしっかり興味関心を持ってもらうために、歴史のある過去の服の成り立ちも参考にして工夫しています。

写真左・真ん中:2016年A/Wテーマ「スクランブル」。現在の東京を象徴する、渋谷スクランブル交差点から着想。横断歩道をボーダー模様と捉えたアイデアなどを盛り込んだ。
写真右:2017年S/Sテーマ「イミグレーション」。2016年にリオオリンピックが開催され、2020年には東京オリンピックが開かれることを受け、玄関口である空港で行われる「入国審査」をイメージした。
櫛下町:佐藤さんは今崎さんとは逆で、現在はレディースを作っていらっしゃいますが、独立前コレクションブランドにいた時は、メンズを担当されていましたよね。

佐藤順哉(以下、佐藤):経歴としては、以前勤めていたコレクションブランドでの最初の配属はレディースでした。レディースを1年間勤めた後、メンズの担当になりました。その後、自分でブランドを起こすとなった時、学生時代はレディースを作っていたので、原点に戻ってアイテムの幅の広いレディースに挑戦しようと決意しました。

櫛下町:先ほど今崎さんとのお話の中でもあったようにメンズはディティールが凝ったものが多いですが、レディースは直感的なものづくりの世界になっているかと思います。そこはどう感じていますか?

佐藤:そうですね。確かにメンズの世界では、ディティールや素材に関して凝っていて、それなりに制限が厳しい中でものづくりをしていました。でもそこで勝負をするより、自分の力を最大限に活かせるところでやっていきたいと考え、その結果レディースで独立することにしました。

写真手前2点:2017年S/Sポリエステルレーヨンをオパール加工した生地やポリエステルにシリコンを加工した生地等を使ったTOPS2点。初めてNYにて展示会を実施した時の作品。
写真真ん中:テーマカラーのブルーを象徴させたジャンプスーツ。
写真奥から2番目:特殊な溶剤を使用。型押しでクロコダイル柄で、触ると紙のようにパリパリとしている。
写真1番奥:2015年デビュー当時の作品。オリジナルのストライプ柄を使ったドルマンスリーブのTOPS。
櫛下町:インさんは展示会をするようになってから5シーズン目ということだそうですが、1、2シーズン目は大変苦労されたそうですね。

イン チソン(以下、イン):はい。最初のシーズンは、全くの無名ブランドということもあって、5日間の開催した展示会では業界の方は1〜2人しからっしゃらなかったです。

櫛下町:最近はいかがですか?とても有名なバイヤーの方がいらっしゃっているとお伺いしましたが。

イン:そうですね。最近は以前より増えました。バーニーズニューヨークさん、伊勢丹さん、RESTIRさんなどのバイヤーの方が来てくださっています。

写真右:2015-16A/W定番のジグザグ模様ニットワンピース。
写真真ん中:「Surreal(超現実)」というテーマに合った色合いや刺繍などを使った。刺繍は岐阜県の刺繍屋に注文。袖の見返しには黒のスウェード生地を使用。
写真左:高度な技術を必要とする、レザーにプリントをのせたライダースジャケット。韓国の工場にプリント加工を依頼。プリントの柄は自身でデザイン。
櫛下町:小高さんはニットのデザイナーということですが、学生時代からニットに携わっていたのですか?

小高真理(以下、小高):はい。学生時代に先輩が色々と教えて下さった影響でニットの面白さにのめり込んでいきました。そこからニット科の先生といろいろな取り組みにチャレンジしました。

櫛下町:ブランド名のマラミュート(malamute)とはどんな意味ですか?

小高:シベリアンハスキーに似た犬の種類の名前で、響きが好きでこのブランド名にしました。

TOPS:ハイゲージのラメ糸のニットで薄く仕上げた。ブラウスのような感覚で着ることができる。
SKIRT:引き返し編みという円に編める(サーキュラースカート状になる)技法を使用し、さらにシワ加工を施した。(シワ加工は手でくしゃくしゃにした後、ストッキングのようなナイロンの袋に入れて蒸し機で2時間ほど蒸す。)
櫛下町:茅野さんは、つい先日、日本の有力点が選ぶ「最もクリエイティブなデザイナーランキング」9位に選ばれていましたね。

茅野誉之(以下、茅野):そうですね。でも、僕も今崎くんのように新人賞を狙っていたので、まだまだ頑張らなくてはいけないなと考えています。

櫛下町:“CINOH”では年間のコレクションの発表が多いと伺いました。

茅野:はい。SS、Resort、AW、Pre Fallと年に4回に分けてコレクションの発表をしています。そのため、忙しく過ごしています(笑)。

写真左:テーマ「work」現在店頭にも出ている。TOPSはPUを入れることによって立体感を出した。
写真真ん中:2017年S/Sテーマ「グラフィック」様々な柄を自身で加工。写真はチュニジアの王様の柄をエスニックな雰囲気で醸し出した。
写真右:定番デニムのスラックスタイプ。8オンスでマーベルト使用。

【デザインはどのようにして生まれるのか】

櫛下町:5名とも様々な経験を積まれてきたと思いますが、その培ってきた経験の中でアイデアやデザインの生み出し方がだんだんと定まってきたかと思います。そのデザインの生み出し方についてお伺いしたいと思います。

今崎:僕は、デザイン画から始めるのではなく、まずテーマを決め、開発予算と売り上げ達成目標を決め、そして型数を決めます。そのあとに、どんなアイテムをどのような素材で作るかという表を作成します。頭の中でぐちゃぐちゃになっているものを一旦整理してから最終的にデザインに落とし込みます。デザイン画を先に書いてしまうと、感覚的に良いと思うものが優先してしまうので、一貫性を保つためにこのようなやり方をしています。

茅野:僕は生地を作るところから始めます。生地が出来上がってくるまでに時間があるので、その期間にデザインを決めておきます。生地の出来上がりとデザインをしておいたもののイメージの差異もあるので、生地が上がってきた段階で、デザインを練り直したり細かい微調整をしたりします。

櫛下町:小高さんは毎回花のモチーフを入れていますが、その花のアイデアソースはどこから来ているのですか?

小高:その時に気になった小説や映画の中に出てくる花をモチーフにしています。モチーフにする花が決まったら、まず最初にその花を取り入れたジャガード生地を作ってしまい、そこからデザインを決めていくという流れです。前回はルキノ・ヴィスコンティの『ベニスに死す」という映画に出て来た紫陽花が綺麗だったのでそれをモチーフにしました。

櫛下町:佐藤さんはパートナーの方がいらっしゃるということですが、どのように進めているのですか?パートナーの方はデザインもパターンもされるんですか?

佐藤:はい。彼女はデザインもパターンもやってくれます。
私自身は、コレクションブランドとセレクトショップでの企画の経験を経た中で、どちらでも共通して取り組んでいたことはリサーチでした。現在でもリサーチをやり尽くしてから、デザインをするという流れは変わっていません。世の中の流れを知ることは大事だと考えているので、アパレル業界だけに絞らず、新聞やニュースにもアンテナを常に張るようにしています。そういった中でヒントになるワードをパートナーと共有していき、テーマの方向性を決めていっています。彼女はパターンのプロなので、話し合いをしていく中で仕様などの細かいところまで決めていって一気に服に落とし込んでいきます。

櫛下町:インさんは言葉をデザインソースにしていると伺いました。

イン:そうですね。周囲にある言葉などに意識を向けています。そして、頭の中に浮かぶものをとにかく書き出します。そして、その中でテーマとリンクさせて、すり合わせをしていきます。

【クリエーションとビジネス】

櫛下町:クリエーションとビジネスは相反するものですが、そこのバランスをどう折り合いをつけているのか教えてください。

茅野:私はバックグラウンドがない状態で始めていたので、まずクリエーションをするために資金が必要だということを考えました。そのため、基本的に売れるものを作らなければいけないと思いました。しかし、発表の場においてそういったものばかりに偏ってしまうとあまり面白くない。そのため、ルックブックなどには売れるものは載せていません。でも、合わせやすいオーセンティックなものがあることにより、デザインされたものも自ずと売れていっているというのが現状です。

佐藤:私は、企業で働いていた経験から、“売る”ということは最優先しています。一度、自分が作りたいものだけを作ってみるという期間があったのですが、全く売れませんでした。それは、精神的にもコスト的にもかなりダメージを受けたので、その経験からやはり売れるものを作るということは大事だと再認識しました。独立デザイナーは、クリエーションとビジネスという相反するものをしっかりと統合する力量が試されるのかなと思います。

小高:私の考えは、ビジネスが成り立っていないと次のコレクションが作れないということが根底にあります。でもそれと同時に、マラミュートらしさを出せるアイコンのようなものも作っていかなくてはいけないという意識もあります。マラミュートではとても目立つ花柄のジャガードの服が売れているため、そこをメインにしてビジネスにつなげていけないかと考えています。

イン:ブランドを始めてすぐの時は、良いデザインをしたら売れるのではないかと思ってやっていたのですが、やっていくうちに売れるものもバランスよく入れていかなければいけないんだなと思うようになりました。でも、自分はデザイナーという職業ということもあり、売れるものをデザインするのではなく、グッドデザインなものが売れて欲しいと考え、未だ模索しています。

今崎:現在のファッションシステムの中で、いかに継続的にやっていくかということを考えると、ビジネス目線のアイテムも必要だとは感じます。でもビジネスだけを考えてしまうとブランド自体のファンは増えていかない。そのため、いかにアイテムに付加価値をつけて、“高いお金を出して買うものなのだ“ということをお客様に理解してもらうかが大事かと思います。そういう意味でもクリエイティブなものも意識して作っています。

【学生時代にやるべきこととは】

櫛下町:学生時代に頑張ったことを教えてください。

小高:後悔しないように、やりたいと思ったことは一通りやるべきかと思います。私の場合は、それがニットでした。

佐藤:僕は燃え尽きたような時期があり、2年ほどこの業界から離れていた時期がありました。でもやっぱりこの業界の面白さが忘れられなかったため、戻ってきました。そんな経験から大事だと思うのは、“継続は力なり”という言葉の通り、継続していくことだと思います。そして、“喜んで服を作ること”はやはり根本的なところとして大切だと思います。

【パタンナーに求めるものとは】

櫛下町:パタンナーは服作りに必要不可欠な存在ですが、デザイナーの皆さんはどんなパタンナーの方と働きたいですか?

佐藤:“パターンによって服が決まる”と言っても過言ではないくらいパターンは大事です。パタンナーの線の捉え方一つで180度服が変わってくるし、頭が良く、知性がないと出来ない仕事だなと思っています。

茅野:学生さんには言いづらいのですが…(笑)。あまり、学校で習ったことは社会に出た時にクエスチョンなところもあります(笑)。大事なのは、技術的な面ではなくて、センスの部分だと僕は考えています。いかに現代に合わせたものを作れるかということが大切だと思っていて、自分自身も学校を卒業して10年は経ちますがその頃に比べてトレンドの捉え方やフォルムの作り方が変わってきています。いろんなものを見て、自分のストロングポイントを活かせるようにセンスを磨いていくしかないのではないかなと思います。

今崎:社会に出るとオペレーターのようなパタンナーはごまんといます。目指すべきところはその人たちとの差別化だと思います。デザイナーの思いや、そのブランドをどうしていきたいかということをきちんと理解して、そのブランドらしさを一緒に作り上げていける人と仕事をしたいなと僕は思います。

【デザイナーはパターンをわかっているべきか】

櫛下町:デザイナーはパターンが引ける方が良いと思いますか?

イン:そうですね。僕のブランドではパタンナーの方にパターンを任せていますが、自分自身が学生時代にパターンを引いていた経験もあり、パタンナーとの意思疎通がとりやすくなっていると感じます。
小高:デザイナー自身が細かい縫製仕様がわかっていると、小技とかも使うことができるので、表現の幅が広がります。そのため、パターンの理解は大事です。いろんな服の仕様をたくさん見ることが大事だと思います。

【自分らしい服作りとは?未来のデザイナーにアドバイスを】

櫛下町:自分らしい服作りってどうやって発見しましたか?

今崎:僕自身、ブランドを立ち上げるにあたりその点についてとても悩みました。でも自分が歩んできた人生の中でのファッションとの関わりを見つめ直し、その先に自分は何が出来るだろうということをじっくり考えることが大事なのではないかと思っています。

イン:僕も学生の時に悩んで、1年生の時は作品が間に合わないということがありました。2年生の時には、とにかく悩まず、作ることに集中しました。作り続けることで、自分らしさが見えてくるので、悩んでいる時間にシャツ1枚でも作った方が良いです。

小高:私も同じです。たくさん作ることで見えてくることがあると思います。

佐藤:確かに数を作ることは大事ですね。そして、洋服はデザインした人の人間性が現れてくるものだと思うので、いろんなものを吸収しつつ、考えながら服を作り続けることが自分らしい服作りに繋がっていくと思います。

茅野:僕自身は現在も悩んでいる途中です。でもやればやるほど見えてくるものも増えていきます。だからやり続けるしかないのかなと。でも、それだけずっと探し続けられる良い仕事なのかなとは思うので、向上心を持ち続けてやっていけば良いのではないのかなと思います。

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【editers view】

本シンポジウムでは、今後を担う5人のデザイナーの話を聞くことができた。それぞれに共通する認識もあれば、全く異なる視点や考え方でブランドが成り立っていることも垣間見えたかと思う。共通する認識は、この業界でやっていくためには重要な事実で、異なる意見は他のブランドとの差別化の部分なのではないだろうか。このシンポジウムの記事を読んで、将来、この業界でどのように活躍したいかというイメージを想像するきっかけになると嬉しい。

Text:Reiko.SREADY TO FASHION 編集部)

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READY TO FASHION MAG 編集部

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