アパレル業界のリアルを本音で話すトークイベント「本音会議」が、2019年12月12日(木)に原宿のTokyo Fashion technology Labにて開催された。本イベントは、業界内外のゲストを呼び多様な視点からアパレル業界を考察したほか、聴衆のリアルタイム匿名質問システムも導入され、活気あふれる一夜となった。
本記事では、イベントの第二部「アパレル業界のキャリアプラン」について掲載する。
第二部ではアパレル+人材の分野で活躍される吉田直哉さん(以下吉田)、鶴戸茉利さん(以下鶴戸)のお二人をゲストにお招きし、アパレル業界についてのあれこれを本音で語って頂いた。
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企業の選択の基準について
ー福田:早速ですが、アパレルに進むか迷ってる学生にどういう基準でキャリア選択をしていけば良いのか、ご意見をいただきたいです。
吉田:基準というのは明確にはなく、100人いれば100通りの基準が存在しています。ただ傾向としては、アパレルに行くとなるとブランドが入り口になりがちです。そのブランドの服が好きっていう点で入ると思うんですけれども、入ってみたらその会社の風土に合わないとか、想像と違うといったような問題が出てきてしまう。そこで、もう一つ掘り下げて、自分がどんなことをしたいのかということを考えてほしいです。
ーと、おっしゃいますと?
吉田:名詞じゃなくて動詞で考えてほしいということですね。どこで働きたいのかというよりも、その会社に入って何をしたいのかということ。企業、法人っていうのも性格を持っていて、その場所に行くことで自分のやりたいことができるのかキチンと見極める必要があります。その結果がファッション業界じゃない時だってもちろんあるでしょう。
ーありがとうございます。服が好きっていうだけではなくてその先を深掘りするということですね。
吉田:好きな服についてはいくらでも語れると思うけどそこで終わってしまうんじゃなくて、実際働いている人に話を聞いてみたりして内側を知っていくことで、その仕事に対する向き合い方が変わってくると思います。
ー次に、アパレルの企業の選び方について教えてください。
吉田:結論からいうと、就職すると会社に依存してしまいます。繰り返しになりますが、同じ大手であっても性格は違うし、同じベンチャーでも身につけられるスキルは変わってきます。
ーその情報を手に入れる手段は、今だと基本的にWebになるのでしょうか。
吉田:基本的な情報はWebが主流ですが、人を介していない最初の情報をいかに取りに行くかっていうところに時間と頭を使ったほうがより良い就活ができるのではないでしょうか。これはファッション業界に限った話ではないでしょう。
ー「就活に際して、服飾の専門卒と一般的な四大卒で差はありますか?専門学校で教わるような知識がないので心配です」と質問が来ています。
鶴戸:私は四年制の大学で国際文化を学んでいました。私の新卒の企業は総合職14名の採用がありまして、専門卒は2名しかおらず残りは4大卒でした。専門知識を学んでいないことはそこまで引け目に感じる必要はないと思います。実情は大差ないのではないでしょうか。
販売員について
ー販売員の経験は自分のキャリア形成につながりますか?
吉田:二人とも販売員出身ですが、商売の基本は販売員で学んだと思っています。お店にいながらお客様に直接プレーすることもできれば、バイヤーと話して商品を仕入れてもらうこともできます。全てのことをしなくてはいけないから、アパレルの様々なところに繋がってきますね。
鶴戸:本当にその通りだと思います。誰でもできるといえば誰でもできるけど、その道のプロとして何千万稼ぐフリーランスもいるので、それを踏まえると販売はプロの仕事だという認識をした方がいいかもしれません。
ー「販売職は40、50代になった時のキャリアプランが不透明で不安」との質問も来ています。
鶴戸:皆さんが今好きで買ってらっしゃるデザイナーズやセレクトの販売員は確かに若い人が多いと思いますが、基本的にブランドは客層に合わせた販売員の年齢構成をします。例えば外資系のラグジュアリーで時計や宝飾を売るとなったときは40、50代の店員の方が接客に説得力も出ますし、ちゃんとプロの販売員としてやっていくこともできるのではないでしょうか。
吉田:ファッションに限らずどんな職種であろうと、何もなければ40、50代で取って代わられてしまいます。自分にしかできないことをどれだけ積み重ねておくかっていうのはすごく大切になってきます。この職種だからどうってよりは、自分の価値を高めていくことが大切ですね。
転職について
ーアパレルで働いてた人が別の業界に転職する事例は多いのでしょうか。
吉田:価値っていうところにフォーカスしてお話しすると、採用する側にとっては「あなたを採用するメリットって何ですか?」という部分を見てきます。例えば、その分野とは全然違う経験を20年積んできた人が転職するっていうのは難しいですよね。20代後半あたりを超えてくると、即戦力での採用を欲しているので全くの別業界では価値を発揮しづらいと思います。ですから全く違う業界に転職する事例は多くはないですね。ですが、全くないかと言われるとそういうわけでもありません。他業種で言うなら、ファッションテックなどIT・テクノロジー分野の企業はファッションの感性を持った人材を欲している傾向があります。こういった企業はビジネスやテックの人材が多くなりがちですからね。
自分の価値の探し方について
ー「自分の価値というのはどう探していけば良いのか」と質問が来ています。
吉田:その世代で何かの分野で一番であることを目指しなさいということです。100万分の1の人材を目指すということですね。それは実際難しいこと。ですが、才能がなくても10,000時間努力すれば100人に1人にはなれると言われています。ひとつ何かを極めたらもうひとつ極める。もうひとつを極めたら更にもうひとつ。100人にひとりの能力を3分野持っていれば、掛け合わせで100万分の1になれますよね。
ーなるほど。1つで一番になれなくても、いくつかの得意分野を持つことができれば、それは価値として認められるということですね。
吉田:そうですね。あとは、自分の実力を正当に判断すること。マーケットにおける自分の価値をきちんと理解することが何よりも重要かと思います。
ー学生のうちにやっておいた方がよいと思うことはありますか?
吉田:学生のうちに色々なことを知っていくことがとても大切です。また、発信力もとても大切になってくると思います。SNSをやっているけど外向けに運用していない人は、情報化社会の中では何とも定義しづらい存在となってしまうでしょう。今から発信するツールとして何か媒体を持っていた方がいいと思います。
ー資格などは持っていた方がいいのでしょうか。
吉田:資格は別に持っていないといけないわけではないです。資格はあるけど何にもできない人よりは、資格がなくても確実なスキルがあった方がいいです。もちろん、その資格がないとできない仕事というのもあるわけですから、目指す道がそちらにあるなら資格を取らないといけないですが。職種次第です。
給与について
ーお金の話をお伺いしてもいいですか?アパレル業界の賃金が低いイメージっていうのはやっぱり拭えないと思うんです。今も学生からお金に関する質問が多く寄せられています。
吉田:正直なところ、その人ひとりに払った給与に対して、どれだけ生産性が高いかによります。すごく売る販売員はやっぱり稼ぐことができます。それこそ、年収1000万円超えることもあるのではないでしょうか。確かに業界全体で賃金が低いイメージは持たれがちですが、実際は個人の能力次第といったところです。
ーアパレルの中でも、職種別だといかがでしょうか?
吉田:宝飾系などはセールがない分、利率が良いため高給になることが多いです。また、ECはファッションでなくても応用が利くので色々な業界に欲しがられます。そういった点も考慮すると、比較的給与レンジは高めになっているのではないでしょうか。
アパレル業界について
ー「アパレル業界って楽しいですか?また、どんなところにやりがいがありますか?」との質問です。鶴戸さんいかがですか?
鶴戸:すごく楽しいです。販売一つをとっても、お金をもらってそれで食べていくには、それだけ商品を売って、自分のためにお店に来てくれる顧客さんをきちんと作る努力をしなければなりません。どうやってトップセールスになろうかと考え、努力することに楽しさややりがいがあると思います。もし職場のブランドテイストが自分と異なるものでも、ファッションビジネス的な観点から興味を持てる人は楽しめると思います。
ー吉田さんは就職の時、何がお好きでアパレルへの入社を決められたんですか?
吉田:その時は、冒頭で述べた内容と矛盾してしまいますが、純粋に服が好きで入りました。ましてやバーニーズという企業すら知らなくて、友達に「バーニーズ受けないの?」って言われて、ギリギリで調べて応募し入社した経緯があります。
ーなるほど。
吉田:ただ、今業界を客観視して思うのは、ファッションの力は想像よりはるかに大きいということです。ファッションは人を変える力を持っていますし、素敵な服を着てる時ってテンションが上がると思います。自己承認欲求を満たせるコンテンツが伸びると言われている現代において、その性格が一番強いのがファッション業界なんじゃないかと思います。
最後に
ーありがとうございます。最後に、学生が明日あるいは今日の夜からできるようなことが何かあれば教えていただきたいです。
吉田:では皆さん、目をつぶってみてください。前後左右の人の服の色がわかる人いますか?(半分ほど手が挙がる)見えてるものはみんな一緒なのですが、その情報をどう捉えるかというのはその人自身の見方や意識によって大きく異なるんです。これをカラーバス効果と言います。無意識で歩くと入ってくる情報の量も限られてしまうんです。ですから、意識的に日常から情報を集めるということが大切です。
―吉田さん、鶴戸さん、貴重なお話をありがとうございました。
業界内外からアパレル業界への就職に関して考察する本音会議はこれにて終了。
本音会議の当日の様子はYouTubeでも公開中。
学生の就活のヒントになるイベントを今後も定期的に実施予定。引き続きREADY TO FASHIONをチェックして頂きたい。