インターネットによって、これまで活用できていなかった人・もの・技術・場所などがそれを必要とする人とつながり、新しい価値を生み出す「シェアリングエコノミー」。Uberに代表されるカーシェアリング、Airbnbに代表される民泊、新しい金融としてのクラウドファンディングなど、様々な業界に変化を起こしている。日本の重要拠点が集まる永田町に誕生したシェアリングエコノミーのシンボル的ビル「Nagatacho GRID」で、ファッションをテーマとしたトークイベント、「Fashion×Share×Technology―これからのファッションブランドのはじめ方」が行われた。これからのファッションブランドに、シェアリングエコノミーは何をもたらしてくれるだろうか。

テノロジーによって必要な人やもの同士がつながる世界

いまや政府からも注目される「シェアリングエコノミー」は、うねりとなって現代の資本経済を大きく変えつつある。これまで使われていなかった物や場所、市場にあがっていなかった個人のスキルや持ち物などが、テクノロジーによって個人に共有され新しい機会を生み出す。これまで閉鎖的だった製造業にもその波は押し寄せてきている。縫製工場の閑散期に空いている遊休資産を活用するシタテルも、そのひとつ。資源やエネルギー、労働人口に限りがある中で、今後さらに必要とされるビジネスのあり方だ。

理想のデニムはオンラインサロンで商品開発

一人目のゲストは「EVERY DENIM」の共同代表である山脇耀平氏。EVERY DENIMは、2014年山脇氏の大学休学中に、弟の島田舜介さんと兄弟で立ち上げた、岡山デニムのブランド。現在、二人とも大学に通いながら全国を行脚し、ファンを広げている。2017年4月には兄弟で「Forbes30under30」に選出され、6月には「ガイアの夜明け」に特集されるなど、いま大注目のブランドだ。その人気ぶりは、インターネットでの不特定多数とのコミュニケーションと丁寧な対面コミュニケーションとの上手な掛け合わせにあると言えるだろう。

「僕らは特定の店舗や卸先を持っていません。でもECだけで販売する訳ではなく、全国のコミュニティスペースやイベントなどに出かけて行って試着会を開いたりと、直接お客様と対面でコミュニケーションすることを大切にしています。今後は、キャンピングカーを買って全国を巡る移動販売に挑戦するつもりです」(山脇氏)

ものづくりやお金集めには、シェアリングサービスをふんだんに活用している。最新モデルは月額制のオンラインサロンでメンバーを募り、「理想のデニム」をテーマにファンを巻き込んだ商品開発を進めた。7月まで取り組んでいたクラウドファンディングでは、およそ370名から770万円の資金を調達。オンライン・オフラインを活用し、ファンと一緒に育てていくブランドを実現している。次世代の消費のキーワードともなるであろう消費者の「自己関与欲求」をうまく捉えた、新しいブランドだ。

日本の素材と文化に魅せられイギリスからひとり東京へ

二人目のゲストは、”大人になっても忘れない子供心”をコンセプトにしたメイドインジャパンブランド「KiD」の代表・デザイナーのSamuel Alexander氏。イギリス生まれの彼が、どうして日本でブランドを始めたのか。Samuel氏は、2012年にロンドン芸術大学のファッション・デザイン専攻を卒業。だが、アーティストやデザイナーが星の数ほどいるロンドンで、他と違うクリエイションをどう実現するのか一年ほど悩んだという。そんな時、幼い頃からアニメや伝統文化に関心があった日本という国に惹かれている自分に気づいた。日本に根ざした上質なものづくりでブランドのアイデンティティを磨き、それを自国イギリスに持ち帰る、ひいては世界に広げていくことができるのではと考え、2014年東京に移住を決めた。

ひとり日本に来てコネもツテもなかったSamuel氏がブランドを立ち上げられたのは、やはりシェアリングサービスの力だった。クラウドサービスで鞄職人を紹介してもらい、ものづくりを始めた。また、オンラインのアーティストパトロンサービスで、ブランドのファンに特注バッグをリターンとして作る代わりに定額を納めてもらい、資金をやりくりしていった。とはいえ、山脇さんと同じく直接のコミュニケーションも大切にしている。展示会や受注会はコミュニティカフェで行う。

「最初は日本語もそんなにできなくて、勉強しました。やっぱりお客さんに商品やブランドの良さを、ちゃんと自分で伝えたいから。ブランドはまだまだこれからですが、もっともっと商品のクオリティを上げていきたいですね。」(Samuel氏)

大学生でも外国人でもブランドが立ち上げられる時代に

イベントの最後には、「立ち上げたいファッションブランドやビジネス」「シェアリング要素」「テクノロジー」を書き出しグループで共有するワークショップも。何か始めたいと思っている参加者の方々も多く、様々な悩みやアイデアの”シェア”を実践して、一歩スタート地点を踏み出せたかもしれない。

登壇者のふたりに共通するのは、個人でありながら”クラフト(ハンドメイド)”に納めず、”プロダクト”として世界基準を目指しているところだ。その成功には、商品企画、生産技術、資金調達などにうまくテクノロジーを活用しながら、リアルでのコミュニケーションも大切にするという鍵がありそうだ。

「消費のあり方とか物の買い方が変わってきているなかで、お客さんと産地に寄り添いながら、ブランドの在り方も考えていきたいと思っています」(山脇氏)

「自分の作りたいものと向き合ってトレンドに振り回されないようなものづくりをしていきたいですね」(Samuel氏)

シェアリングエコノミーがファッションや服づくりの在り方を変え、どんな立場であっても強い思いがあればブランドを立ち上げられる、そんな時代になってきていることが実感できた会だった。

photo : TakumaToyonaga

READY TO FASHION MAG 編集部

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